(C)hosoe hiromi 細江ひろみ
ノベライズ おまけ

暴れん坊プリンセス

プリンセス・ルージュの、華麗なデビュー!/ 正義の味方登場!/ 大団円をめざせ!


PS2

1〜3

原作者様



公式サイト

追跡二十四時間! 目指せ聖騎士!

公式サイトの掲示板に書き込んだ、んだったかな?

午前零時

「おいシオン……。シオン!」
「ふぁ?」
「喝!」
 アッシュが眠たげなシオンのわき腹をヒジでつついた瞬間、老師が干からびたようなその外見からは想像もできないような大声が、まるで落雷のように二人の上にドカンと落ちてきた。
 騎士養成学校の、規則にうるさい通称ニワトリと呼ばれる教師にも、二人はよく怒られたものだけれども、そんなものとは質もケタも違う。
 ニワトリのそれが、まさに怒ったニワトリに突かれるようなつまらない繰り返しであり、そして終われば忘れてしまえる鬱陶しいが無意味なものだとすれば、老師の喝はまさに落雷。音だけであってもの身が勝手に危険を感じて産毛が逆立つ。
 ゼッツォ僧院に到着してまだ旅の疲れも取れていないその日というか翌日から引っ張り出された深夜の礼拝(といっても、ゼッツォ僧院の場合神様に祈るわけではない)。その初日に居眠りをしかけたシオンとアッシュは、そこで老師の「喝!」の洗礼を受けてから、老師の前に出るだけでアッシュは心身に染み込んだそれを思い出し、意識もしていないのに背筋がシャンと伸びてしまうようになってしまった。
 なのにシオンの方は、いまだ「ふわぁ〜」というありさまだ。
 つまり落雷はシオンめがけて落ちてはいるのだけれども、もちろん隣にいるアッシュも毎日巻き添えを食う。それが日課になってしまった。
「おいシオン、そろそろ慣れろよ」
 もちろんアッシュがいうのは、深夜の礼拝に慣れて目を覚ましていてくれという意味だ。
「あ? うん。もう慣れたよ」
 もちろんシオンがいうのは、老師の喝に慣れたという意味だ。

午前一時

 ゼッツォ僧院の周辺には、何もない。草一本生えないような徹底的な荒野が広がっているだけである。そんな場所では寒暖の差は砂漠並だ。だから夜の今ごろは、ひどく冷える。その冷気の中で二人は水汲みを始めた。
 河の中州にあるシルバーベルは水の都と呼ばれるほど水路だらけの街だったけれど、このあたりには小川一本ありはしない。深〜〜〜〜い井戸が一つあるきりだ。
 そこから、僧院で使う一日分の水を汲み上げ、僧院の各所に運ぶことは二人に任された仕事である。そしてここでは水が貴重だから、二人が水を好きに使えるのは、この時間しかない。
「アッシュ、お先にどうぞ」
「いやシオン、俺は遠慮しておくよ」
 つまり、水汲みのついでに二人は顔を洗い口をすすぐだけでなく、濡らした布で体の汚れをぬぐうことになっている。
 けど、つまり、なんというか、この時間はとっても寒いのだ。
「僕に遠慮なんかしなくていいからさ〜」
 といいつつシオンは濡れタオルをアッシュの顔面に向けて放り投げた。それは見事に命中し、ビシャリとあたりに水滴をまき散らす。
 アッシュはそのタオルで顔をぬぐうと、タオルを水桶に突っ込み、ニヤリと笑った。
「シオンこそガッ! と行こうぜ?」
 何がガッ! なのかわからないが、アッシュは逃げようとしたシオンの襟首を掴み、濡れタオルを首筋に落とし込んだ。
「ヒャッ! ヒャッ! うひゃひゃ!」
「うひひひひ!」
 飛び跳ねるシオンを見てアッシュが笑う。がそれも、シオンが飛び跳ねつつも桶を持ち上げアッシュに向かって中身をぶちまけるまでのことだった。
「のひ〜!」
 言葉にならない悲鳴を上げて、アッシュが硬直する。けれどすぐに……。
 二人を指導するゼッツォの僧が一人、遠くからそれを眺めてため息をついていた。

午前二時。

 ゼッツォでは、三日分のパンを一度に焼く。それもシオンとアッシュの仕事になった。つまりは小麦粉と水を練って焼くのである。卵とかバターとか牛乳とか、そういったものがタップリ入った口当たりのよいパンではありはしない。歯も折れよ! というばかり固いパンだ。とにかくそういうものの元を二人はコネる。干しブドウから作ったパン種を入れてコネ、わずかながらも膨らむまで寝かせる。
 それをシオンが、暗い顔で眺めた。
「今日もあんまり膨らみそうにないね」
「それ以前にベチョベチョしてねーか?」
 つまりそれは、今後三日間不味いパンを食べなければならないということだ。もちろん二人だけではない。老師も僧たちも巻き添えである。いい迷惑だ。
 二人は小さな鍋に少しだけ水を汲んで手を洗い、次の仕事に移った。
 パン種を寝かせている間に、オーブンを温めなければならない。ゼッツォで手に入らないものの一つに薪がある。だから使える薪の分量は限られている。焚きつけも無いから火を起こすのは大変だ。けれど火の扱いは二人にとって一日の作業のうちで一番面白い行為でもある。

午前三時

 オーブンが暖まったら、パンを焼く。次々焼く。コゲたり生焼けだったりする。朝食の仕込みも同時にする。たいして面倒なメニューではないが、その分食べられるものも単調だということだ。けれどちょろまかしてつまみ喰いもする。先の騒ぎでベタベタになった服を余熱で乾かし、さきほど手を洗った水が入ったままの鍋を火に掛けて、薄い小麦粉のスープもどきで腹を温める。

午前四時

 夜明け前、二人は僧侶たちのために朝食を用意する。幸い複雑なメニューではないが、食事時の給仕の仕事を完璧にこなすことを求められる。
「なあシオン。これのどこが聖騎士になるために必要な修行なんだ? こんなんで俺たちは聖騎士になれるんだろうか?」
『喝!』
 アッシュのボヤキは、老師の耳に入ったようだ。老師は歌うように二人に告げた。
「何事もあるがままに、心穏やかに受け入れよ。それが修行である」
 僧の一人が後で教えてくれたけれど、老師の言葉通りでもあるけれど、なんでも宮廷の食事のマナー込みなんだそうだ。
「つまり僕たち、ルーに給仕することもあるってことだよね?」
 そうかもしれない。
 僧たちの食事が終わって後片づけがすむと、やっと二人の食事の時間だ。
 量必要不可欠な分だけはある。聖騎士候補を栄養不良の状態にしておくわけにはいかないからだ。けれども質と時間はまるでなかった。大急ぎでかっ込んで、それから皿を洗う。幸い汚れた皿は、人数分しか無いので簡単だ。

午前五時

 強制的な休憩時間。どうせなら、休憩時間も使って食事をしたいものなのだけれども、それは許されていない。しかも休み時間ではない。わずかな時間の間に食べたものを腹の中で落ち着かせ、意識して体調を整え、体と頭を休め次の仕事に備えなければならない。
 眠っちゃいけないし、横になってもいけない。心身共にリラックスさせ……。
 アッシュは、指導を担当する僧に向かって嘆いた。
「んなこと言われても、ぜんぜんわかんねーよ!」
「シオン君はわかっているようですね」
「シオンは目を開けたまま寝てるだけです」
「グー」
「寝るんじゃない!」
 さすがに僧たちの叱責は、老師ほどの迫力はない。

 体調を整えたら、夜明けと共に勉強の時間が始まる。目の前で怒濤のごとくあれやこれやを表現され、すぐさまどれだけ理解したかをチェックされる。一字一句を真剣に聞き、一言一言の関連性を考え続けなければ、すぐにわけがわからなくなる。丸暗記は通用しない。聖騎士候補は、正確な意味では生徒ではない。教師は何がなんでも、聖騎士を作り上げなければならない。生徒の出来が悪いので聖騎士に育てられませんでした、ではすまないのだ。だから生徒が理解するまでは先に進まず繰り返す。けれど教えなければならないことは山ほどあるからノンビリはできない。しかも今回は、すでに王女は竜を継承している。王女が十八になり竜が目ざめる時までに、何がなんでも聖騎士を作り上げなければならないのだ。

午前十一時

 朝の勉強がやっと終わると、昼の礼拝の時間である。
 シオンとアッシュは、今さっき教えられたことが、蜂の巣を突いた直後のようにワンワンと飛び回っている頭を抱えたまま礼拝をする。
「ぐ〜」
「喝!」
 朝も早いし眠いのは、わからないでもない。
 礼拝が終わったら昼食の準備だ。昼食のメニューはことさら簡素で、作るにも片づけるにも手間はかからない。けれど量や質や時間について問題があるのは朝と同じ。

午後零時

 この時間帯になると、気温が目に見えてグンと上昇し始める。空気は乾燥しているから、汗はすぐ引くし室内は涼しいけれども、遮るもののない日差しと照り返しが削ぐ生命力は半端ではない。
 だからシオンとアッシュのスケジュールには、昼寝が割り当てられていた。
「アッシュ、やっと好きなことができそうだね」
「ぐ〜」
「寝ちゃった? ダメだ。僕も耐えられないや。ふぁ〜」
 けれどこの時間も、僧たちは眠らない。

午後三時

 涼しい室内で眠っていたとしても、体は乾ききってしまう。
 目覚めたシオンとアッシュは、まず水を飲む。この水がまた量が決まっていて、二人に満足をもたらすほどではない。
「ジャンケンぽん!」
「僕の勝ちだ!」
「負けた〜」
 満面の笑顔のシオンと、げっそりしたアッシュ。そしてシオンは二人分の水をゴクゴク飲んだ。
 次いで、まだ暑い野外で肉体の鍛錬の時間が始まる。基礎体力作りから始まって、白兵戦や剣もみっちり仕込まれる。
「へげ〜」
「ほへ〜」
 二人は、自分たちがヘバる原因が、この水のやりとりだと気づくまでに一週間とかからなかった。水の飲み過ぎや水分不足が即座に影響を現すほど、訓練はみっちりと行われた。

午後五時

 まだ明るいうちに今度は僧院の大掃除をする。ゴミはほとんどないけれども、一日でどこもかしこもホコリっぽくなる。砂よりも細かい土ボコリが、荒野から風に乗ってありとあらゆる場所に入り込む。それを全てぬぐい取るなり叩き落とすなりする。
 パンポンパンポンと二人で敷物を叩いているうちに、いつのまにかフトンたたきが剣になり敷物が盾になる。
「シオン! やるか!」
「アッシュ! 受けて立つぞ!」
 ドベシッ! 二人の頭上で星が舞う。
「お前ら、つい先刻まで本物の武器と防具で訓練を受けたばかりだろう。どうしてそこでそれでそういうことをして遊ぶんだ?」
 二人におもいっきり拳固を見舞った僧は、怒るよりもあきれていた。

午後六時

 またもお勉強の時間。
 午前中にやったことの復習から始めて、短時間に手早く簡素に詰め込みまくり。

午後七時

 さて夕食のメニューは、他よりは凝ったものである。おいしいかどうかは、あるいは僧たちがまともな食事にありつくことができるかどうかは、シオンとアッシュの腕の上達にかかっている。
「うげッ」
「む〜」
 さすが僧たちは無言で何事もなかったように食事を続けている。が、シオンとアッシュはまだ鍛錬が足りないようだ。
 もちろん、お残しなど許されない。

午後八時

 気温が急激に下がり始める。精神統一のための座禅の時間だ。
「すや〜」
「すや〜」
「喝!」
 やはり食事の後は、こうなってしまう。

午後九時

 就寝である。二人とも、一瞬にしてキュ〜。

午前零時

 あらたな一日が始まる。