(C)hosoe hiromi 細江ひろみ
ノベライズ おまけ

LUNAR2

レミーナただいま修業中


PS2ベスト

レミーナただいま修業中

原作者様 「月光」

十四シルバーの怪物

角川スニーカー文庫の、「ルナ2 レミーナただいま修業中」の、三話と四話の間にあたる。「レミーナ」は、最初から5本書いて4本使うつもりだったので、こういう没が発生した。ちなみにこれは、完成に近い下書きであり、完成版ではないため、本編とは矛盾・重複する部分や、荒削りな部分がありますので、ご了承ください。

 

 魔法世界ルナ。
 ルナの天には、月がない。
 それにかわるのが、青き星だ。
 星といっても、見かけの大きさは、私たちの世界の月よりも、ずっと大きい。
 さらに、昇ったり沈んだりはせず、夜も昼も天の一角にじっとしている。
 じっとはしているけれども、変化に富んでいる。
 まず、正午には新月ならぬ新青となって姿を隠している。
 日の傾きと共に少しづつ姿を現し、夕方半青となり、真夜中ついに満青となり、夜のルナを光々と照らす。
 その後少しずつかけてゆき、夜明けに半青となり、そして正午再び新青となる。
 さらにその表面の模様も、青き星の自転と雲によって、刻々と千差万別に変化する。
 ルナの人々は、この青き星を大切に想う。
 人は昔、青き星からアルテナ様に連れられて、ルナへとやってきた。
 それぞれの魂も、青き星からやってきて生を得て、最後には青き星へ還っていく。
 ルナの人々は、常に世界と人々を見守る青き星と、常に世界と人々を見守る女神アルテナの姿を重ね合わせ、青き星を見上げて、自分の想いをそこに映す。
 それは、ルナを去った誰かの魂のことかもしれないが、年頃のルナの少女であれば、青き星を見て想うのは、ルナで魂を寄り添わせる相手の・・・、つまり恋の行方というのが、定番だ。
 ヴェーンの穏やかな昼下がり。
 レミーナは窓辺で、ほとんど空の青にとけ込んでいる青き星を見上げながら、ため息なぞをついている。
「あ、あのぉ」
 窓の外から、遠慮がちに声をかけたのは、オーサ家に借金作って居候している、神官少年のティオである。
「なに?」
 気の抜けた声で返事をしてから、レミーナはティオが持っている物を見て、ハッとした。
「ティオ・・・。何してたの・・・」
「え? あの、洗濯物干しですけど・・・」
 ティオは手にした空の洗濯カゴに目をやってから、そう言って、その直後しまった! という顔をした。
「それはやらなくて、いいっていったでしょーッ!」
 叫ぶレミーナは、真っ赤である。
「す、すみません! でも早く干さないと夕方までに乾かないしッ!」
 答えるティオも、真っ赤である。
 いくらレミーナが、世間からはごうつくばりだとか、ケチんぼだとか、しみったれとか言われていたとしても、男の子に自分の下着を干してもらって、平気でいられるような神経は、していない。(だいたい、それとこれとは、関係がない。)
「だったら私に、いいなさいッ!」
 と叫ぶレミーナに、
「ごめんなさいッ! レミーナさん、忙しそうだったからッ!」
 と叫び返しつつ、カゴを抱えて庭を逃げていくティオを見送りながら、ふぅ、と、ため息をついてから、目を覚まそうとでもするかのように、プルプルと首を振った。
「あーもう、何考えてたんだか、忘れちゃったわ!」
 実際には、忘れたわけじゃない。
 ただ、空の青にとけ込みそうな新青の青き星を眺めながらふと「青き星が、夜その輝きを増すように、世界の危機が訪れれば、魔法ギルドも必要とされて、その輝きも増すのに・・・」と、考えたのだ。
 だけどそれじゃあ、まるで世界の危機を望んでいるみたいで、それはいくらなんでも魔法ギルドの当主らしくないと、レミーナは忘れることにしたのである。
 長年、世界の平和の礎となってきた魔法ギルドをまとめるオーサ家も、ルナ史はじまっていらいの永い平和の中で、名前だけの没落名家となりはてている。

 ティオは、自分に与えられた部屋で、近所の人から引きうけた、古着の仕立て直しをしていた。
 裁縫の腕とスピード、そして服に対するセンスが近所で認められ、ヴェーンの人ばかりか、近郊の猟師や樵たちまでもが、古着をティオのところに持ち込んでくる。
 ティオとしては、本業である神官の仕事以外のことで、お金を貰うつもりはなかったけれども、レミーナとラムスに説得された。
 ・・・こんなふうに・・・。
「ティオ君。夫を亡くした後、裁縫で子供を育てている人のことを考えてごらん。キミは裁縫がうまい上にタダだ。するとその人の仕事が減っていくんだよ」
「え・・・。ボク、そこまで考えたこと、ありませんでした。わかりました。すぐにお裁縫を引きうけるのは、やめにします」
「なにバカなこといってんのよ! そんなこと考えてたら、お金儲けなんて、なんにもできないじゃない!」
「え、でも、ボクがやることで、誰かを困らせるなんて・・・」
「ティオが稼がないなら、私が困るわ! お金返す気がないっていうの! 私なら困らせてもいいっていうの!」
「まあまあ、レミーナちゃん。誰もが豊かになるのが、商売の理想ってものだよ。ティオ君も稼いでお金を返せばいいし、その誰かも稼げばいい」
「だったら間違いなく、オーサ家の借金は、絶対その誰かの借金より多いはずよ。割合でいったら、私の方が困ってるわ」
 ・・・そのレミーナの読みは、間違ってはいない。
 オーサ家の借財は、半端ではないのだ。
 それを聞いてラムスはアハハと、朗らかに笑う。
「借金も財産のうちってね」
 つまり、借金をしていられるうちは、信用があるということだ。
 だけどレミーナ自身は、ラムスの言葉の意味を捉えきれず、首をひねっている。
 商売人にとって、もっとも重要なのは、実のところお金ではない。財産をお金のまま持っているだけでは、死に金だ。お金は運用して初めて生きてくる。そして運用のために必要なのが信用なのだ。
 借金は信用の証なのである。
 ちなみにレミーナを信用してお金を貸しているのは、ラムス自身。
 いや・・・もしかすると、このラムスのレミーナへの評価は、チロの毛皮のように、実体のないものかもしれない。そしたらレミーナがぽしゃりったとたん、ラムスはレミーナの家財全てを差し押さえでもしないかぎり、信用を失ってぽしゃることになる。
 いや、レミーナの維持費ばかりかかる古くて大きな屋敷にも、ラムスが貸しているお金ほどの価値は、ないかもしれない。
 ということは、やっぱりラムスは、レミーナ自身の将来を信じたといっても、いいだろう。
 商売の原則からいえば、リスクは分散すべきで、こんなにも個人によりかかった信用貸しは、すべきではない。
 それに、メリビア一の老舗であるラムス商会も、ラムスの父が旅から帰らず、祖父が商売に失敗してから、かなり厳しい自転車操業が続いている。
 稼いだお金をすぐさま支払いに宛て、なんとかやっているのである。
 少しでもお金の流れを滞らせたり、誰かを不安がらせて信用を失えば、あっというまに出ていくお金が入ってくるお金よりも多くなって、ラムス商会はその歴史を閉じるだろうという、切羽詰まった状況なのだ。
 もちろん、だからといってラムスはそれを、おくびにも出しはしない。
 ニコニコ笑顔と小太り体型、実際よりも年上に見えないこともないおっさん臭い態度で、いかにも大丈夫という印象を与え、信用をつなぎとめているのである。
 そのニコニコ顔で、ラムスはぽんぽんとティオの肩を叩きながら、こう言った。
「ティオ君。ボクはキミの仕立ての代金は、もっと高くすべきだと思うよ」
「え、・・・でも」
「そりゃあ、少しでもいい物を、少しでも安く提供するのが、商人の仕事さ。商人がやり方を工夫し競争して、世の中は良くなっていくんだ。だけどその競争で、キミはズルをしている」
「え? ボク、そんなことしてません」
「キミが安く裁縫を引きうけられるのは、キミに養う家族も生活の心配もないからなんだよ。その分安く仕事を引き受けているあたりが、ズルなんだ」
「あ・・・」
 実際には、衣食住どころか、針も糸もハギレまで、オーサ家のを使っている。
 そして稼いだお金は生活費の一部としてオーサ家に収めているが、じゃあその金額で一人暮しをしろといわれたら、部屋代どころか食費も捻出できないだろうという額にすぎない。
 ましてや養うべき家族がいたら・・・。
 ラムスは、そのことに気づいたティオに、大きく頷いた。
「裁縫を生活の支えにしている人たちを苦しめない方法で、ティオ君は仕事を引き受けるべきだと思うね。そのためには正当なる技術と労働の対価を、受け取ることさ」
 とまあこんなわけで、ティオは裁縫仕事をときたま引き受けたりしているわけだ。
 ・・・弁済金の返済には、及ばないけれども・・・。
 話しはもとに戻り・・・。
「ティオー!」
 レミーナの呼び声に、ティオは手を止めた。
「は、はい! ごめんなさい!」
 あきれ顔のレミーナが、部屋に入ってくる。
「そのあやまり癖、なんとかならないの? まるで私が、ティオをいじめてるみたいじゃないの」
 ティオは赤くなりながらうつむいた。
「え、えーっと、そうじゃなくって、勝手に洗濯物を干して、ゴメンなさい!」
 ティオはレミーナに言われるまで、自分が干した洗濯物について、完全に「洗濯物」としてしか、意識していなかった。
 ところが言われたとたん、恥ずかしいやら、罪悪感やらで、いまだドキドキしている。
 一方レミーナは、すでになんでもないっていう顔だ。
 そういうフリをしているのではなく、もともと気持ちの切り替えが早いのである。
「ティオ。もうそれはいいから、それよりさっきは、何か用だったんじゃないの?」
「あ、はい。古着の仕立て直しに来たボエ村のサリーさんが、ロイブ村のコープさんから聞いたそうなんですけど、カリス村に怪物が出たそうなんですよ」
「またそういう話?」
 魔法世界ルナには、幽霊や魔物のたぐいが実在する。
 だから、怪物が出ることも、あるにはある。
 が、いかんせんルナにはTVも電話もない。
 ニュースは人から人へと伝えられるうち、ひねくりまわされて、こねくりまわされて、原型をとどめなくなる。
 歴史と伝統ある魔法ギルドの、栄光の時代であれば、そういったニュースがあれば、真っ先に魔法ギルドが掛けつけて、真相を解明し、事件を解決し、人々の尊敬を得た。
 だけど、最近は平和だし、魔法ギルドも腕の振るいようがないわ、と、レミーナがティオにこぼしてからこっち、ティオはそういう話を聞くたび、さっそくレミーナに教えることにしているのだ。
 また、といわれてティオはちょっとスネた顔をする。
「またって、今度こそ間違いないですよ。だって、サリーさんがコープさんから聞いたんですから」
 と、まるで自分が見たようなことを言う。
「そうはいうけど、ティオが仕入れてきた話に、まともなのがあったためしが、ないじゃないの。私がちょっと調べたら、何十年も前の話だったり、すでに解決されてたり、根も葉もない噂だったり、いつどこで起きたのかさっぱりわからなかったり。
 それに喋る火吹きネコとか、呪われた村とか、子供をさらって戦闘員にして世界征服を企む仮面の男とか、私に何をしろっていうのよ。ネコには喋らせておけばいいし、呪いを解くのは神官の仕事だし、子供を集めて世界征服ができるなら、やって見せて欲しいものだわ。こないだの人面犬の話なんか、調べたら犬面人のことだったじゃない。犬系の獣人族が歩いてたからって、なんだっていうわけ?」
「でも・・・、カリス村の人が困ってるんです。もし本当だったら・・・」
 瞳を潤ませながら、レミーナに助けを求めるように見上げるティオに、レミーナは困った顔でワシワシと自分の髪をかきあげた。
「どうしろっていうのよ」
「あ?」
 突然ティオが、凍りつく。
 魔法ギルドは、いまやレミーナ一人。
 いくら魔法ギルドの理念や理想がどうであっても、怪物をなんとかしろというのは、レミーナに怪物退治をしろというのと、同じである。
 ティオが手伝ったとしても・・・、14才の女の子と、13才の男の子では、怪物に襲われる役が、せいぜいである。

 その三日後。
 メリビアのラムス商会。
 レミーナはティオを連れて、メリビアにいた。
 簡単なマジックアイテムを、売るためだ。
 簡単なというのは、レミーナが魔法を掛けたアイテムを一工夫したもので、そんなに持たないという特徴がある。
 本格的なマジックアイテムほどの高値は付かないが、仕組みが単純な分作りやすく、効果にも間違いがない。
 光る木の実。
 これはドングリに光の魔法を掛けて、さらに封印を施したものだ。
 買った人が封印を解くと、その後しばらく輝き続ける。
 一晩用、三日用、1週間用とあり、光る期間が短いほど明るく輝く。
 熱い鍋は、鍋に火の魔法を掛けて、封印したものだ。
 封印を解くと、鍋が熱くなる。
 保温用と、煮炊き用の2種類がある。
 冷たい水差しは、氷の魔法を掛けて、封印したものだ。
 入れた水が、いつまでも冷たい。
 ただ、光る木の実以外は持ち運びが不便なのと、使う方だってそのたびに鍋や水差しが増えていくのでは面倒なので、ラムス商会がお客にレンタルする仕掛けになっている。
 一度売った鍋や水差しは、魔力が切れてから再びラムス商会に集められ、レミーナがそれに魔法を掛けなおし、用意してきた封印用紙を張りつけて完成させるというわけだ。
 メリビアでは、この鍋を使った海鮮魔法鍋という料理が、流行つつある。
 いつのまにか、『歴史と伝統のヴェーンに古くから伝わる健康にもいい魔法料理』ということになってしまっているのは、ご愛嬌だろう。
 もちろんヴェーンでは、昔からこうした道具を使ってはいたけれども、どんな鍋で作ろうが、海鮮鍋は海鮮鍋、シチューはシチューである。
 それはともかく、おかげでオーサ家の家計は安定しつつある。
 ただしレミーナは、ラムス商会に到着したとたん、倉庫に閉じこもって魔法の掛けまくり。魔法力がつきた時に、広場のアルテナ様の像までお参りに行くだけという、地道な作業の繰り返しに忙殺されている。
 最初はティオも、鍋や水差しを運んだり、封印用紙を張りつけたりと、レミーナを手伝っていたのだけれども、さすがにラムス商会の店員さんたちの方が手際がよく、というかティオの手際が悪すぎて、たまには一人で遊んでおいでと、ラムスに小銭を握らされて、町へ放り出されてしまった。
 日暮れ過ぎ。
 ティオはいつもより遅れて、ラムス商会に帰ってきた。
 ・・・ここんとこは、レミーナの作業があるので、二泊三日でラムス商会にお泊りだ。
「ダメでしょー、ティオ。夕食までには戻ってこなくっちゃ。ラムスさんに悪いじゃない」
「す、すみません。町で知り合いに会ったので」
 ラムス商会の食堂。
 レミーナ、そしてラムスとその祖父の大ラムス(代々ラムスという名前なのだ)はすでに食事を終えて、食後のお茶を飲んでいる。
 ティオはそそくさとテーブルにつき、自分の分を食べはじめる。
 皿のシーフードシチューは、まだ熱かった。
「あれ?」
 ティオは、不思議そうにレミーナを見る。
 どうやらレミーナが、皿に火の魔法を掛けたらしい。
 レミーナは何でもないっていう顔だ。
「ありがとうございます。レミーナさん」
 ティオは、ニコニコと、シチューを食べ始める。
 ・・・レミーナさんて、性格はキツイけど、悪い人じゃないんだよなー。とか思いつつ。
「それからねもう一つ、ティオにいいニュースがあるわ」
「なんですか?」
「カリスの村に怪物退治に行くわよ」
 ティオは、一瞬なんのことだかわからず、ついで理解してから、思いきりむせた。
「ゲーホゲホゲホ」
「そんなに喜ばなくったって、いいんじゃない?」
「驚いたんだと思うなー」
「ワシもそう思う」
 と、これはラムスと、大ラムス。
 ラムスはニコニコしながら、こう言った。
「レミーナちゃんから、ティオ君はずいぶんカリスの村のことを心配しているって聞いてたから、カリス村の方から来た人に聞いてみたんだよ。事件はつい最近のことだし、しかも怪物退治を名乗り出る人がいなくて、困ってるらしい。なにせ怪物一匹に対し、賞金が14シルバーなもんだからね」
「14シルバーですか?」
 ティオは、自分の実力とは関係なく、困っている人がいれば、手助けしたいと思うタイプだ。もちろん、賞金の額なんて、関係ない。
 だけど、怪物退治で14シルバーっていうのが非常識に低いことぐらいわかるし、それにいくらなんでも14シルバーでレミーナが目の色を変えるとも思えない。
 ・・・いや、これはティオの買かぶりでしかない。レミーナは、たとえ1シルバーでも、目の色を変えるときは変えるのだ。
 それはともかく、ティオは感動した。
 お金第一のレミーナが、儲けを度外視して、村人を助けに行こうと言ったと思ったからだ。
「よほど貧しい村なんですね。レミーナさん、行きましょう。ボクたちに怪物退治ができるとは思えませんが、行けば何かできることがあるはずです。そうなんでしょう?」
 レミーナは、意外そうな顔をした。
「あら、私は怪物を退治して、一儲けするつもりよ」
「え? 怪物退治、するんですか? ボクたちだけで? 14シルバーで? 旅費の方が高くつくでしょ?」
「大丈夫よ。私の魔法力も、めきめき成長してるから、ティオはサポートしてくれればいいわ。それにね・・・」
 レミーナは、瞳にシルバーの輝きを満たして、にっこり笑った。
「・・・怪物は、1000匹くらいいるんですって」
 ティオは、硬直した。
 脳裏に、1000匹の怪物に囲まれて悲惨な最後を遂げる自分の姿が、まざまざと浮かんだ。
 ついでにレミーナの脳裏には、14000シルバーの怪物に囲まれてほくほくしている彼女の姿が、浮かんでいるに違いないと、ティオは確信した。
 そんなティオにはおかまいなしに、レミーナは話し続ける。
「経費として旅費と滞在費がかかるんだけど、問題は何日滞在しなきゃならないかよねー。カシス村が食事と宿を提供してくれるんだといいんだけど」
 独り言のように経費と収入の計算を始めたレミーナの隣で、ティオは食事も忘れて、真っ白になっていた。
 意識を飛ばしたまま、レミーナやラムス×2の顔を順番に見つめる。
 ラムスも大ラムスも、ニコニコしている。
 ・・・なんで?
 ティオには、レミーナやラムスたちが何を考えているのか、さっぱりわからなかった。
 なにせ、山へ行けばサルに襲われ、森へ行けば遭難しかけ、古屋敷へ行けばいもしないオバケに恐がって震えるしかできなかった(これはティオだけ)、2人である。
 ティオがオーサ家の食客になってからずいぶんになるが、いまだに、レミーナがどんなに自分と一緒なら大丈夫だと保証しても、オーサ家の地下迷宮にすら、入ったことがないのだ。
 ・・・大昔、魔法ギルドの学生の訓練や試験のために使われていた、練習用の怪物がいる迷宮である。
 どういう仕組みになっているのかはわからないけれども、餌を与えなくても、常に一定数の怪物が、適度にうろつくようになっているし、しかもその怪物たちは、迷宮の宝箱に被害を与えないよう、条件付けがなされている。
 そのため、レミーナは迷宮を、宝物庫として利用していた。
 ・・・宝物庫といっても、オーサ家にはたいしたものは残っていないが、それでもそんなこととは露知らぬオーサ家の財産目当ての胡乱な連中は引きも切らず、ミリアやレミーナを騙して何か出させようとする者だけでなく、断もりなく入り込んで持ち出そうとする者も多く、これがまたとっつかまえても「勇者なんだからいいじゃないか」などと開き直るため、それなりの対策として、怪物のいる迷宮を、重宝に使っているというわけだ。
 そして胡乱な連中に「マジックアイテムが欲しい本物の勇者なら、本物の迷宮で本物の怪物を倒してね」と告げ、さらに「入場料は、100シルバーです」などと言ってやれば、9割方は尻尾を巻いて逃げ出すし、残り1割のうちの9分までは迷宮に挑戦してから逃げ出した。
 胡乱な連中の中には、一応の腕だけはある戦士もいる。だけど、魔法使いの訓練用に用意された怪物たちは、魔法攻撃でないと倒しにくいのがそろっているため、魔法が使えないと、かなり厳しい状況に陥るのである。
 そして・・・現在のルナの、魔法ギルドにさえ魔法使いがいない状況では、胡乱な連中の中に腕のいいフリーの魔法使いがまぎれ込んでくる心配は、ほとんどないというわけだ。
 入場料は、丸儲け。
 ただし、たった一度だけ、レミーナが留守の時、自称「絶滅寸前の希少主族ピクシー保護活動家」なる人物が、この迷宮をあっさりクリアし、オーサ家の貴重なマジックアイテムを、ごっそり持っていってからは、マジでたいした物は残っていない。
 ついでにピクシーというのは、絶滅寸前どころか、すでに絶滅した種族であり、レミーナが知っているかぎり、偶然水晶の中に封印されていたヤツが一人、テミス近くのオーサ家の崩壊寸前のボロ別荘で隠れ住んでいるきりである。
 結局、その保護活動家一人のために、このアイデアの収支は赤字に転落したけれども、だけどまあオーサ家の資産の中では、地下迷宮と怪物は、維持費がかからなくて、役にたつ部類に属するといえよう。
 それはそれとして・・・。
 ラムスは、行っちゃってるティオの肩を、ポンポンと叩いた。
「大丈夫だよティオ君。たった14シルバーの賞金しかかかってない怪物が、そんなに強いわけはなんだから。ハイリスク・ハイリターン・・・つまり、危険な仕事で大きく儲けようっていうのは、いくらなんでも薦めない。強敵一体と戦うより、雑魚を沢山やっつけて、実力をつけるのが先決さ」
 ティオは我に返って叫んだ。
「実力ってなんですかぁ。実力ってぇ。ボク、怪物退治の実力なんて、身につけたくないですよぉ」
 レミーナが、ちょっと難しい顔をして、小首をかしげた。
「なにいってるよの。実力っていったら、もちろん私の場合魔法使いとしての実力、ティオの場合神官としての実力に決まってるでしょ」
「え?」
「ティオ。あなたヴェーンに来てから、神官の力が、全然伸びてないでしょ?」
「ええ、まあ」
「このままじゃ、将来フリーの神官として、やってけないわよ」
「僕は、仕立て屋の方が向いていると思うけどなー」と、これはラムス。
「あのー、ボク、アルテナ神団の神官なんですけどー」
 ティオは本来、神殿をヴェーンに建立し、正しい神の教えを広めるという使命を、アルテナ神団から受けて派遣された、神官である。
 その使命を果たすまでは、おめおめ神団には帰れない、という決意で、ヴェーンにやってきた。
 もっとも、そのことを覚えているのは、当人のティオと、絶対反対の立場を取るレミーナだけで、人々にはティオのことを、素直で人のいい男の子としか、思っていない。
 あるいは、一番にレミーナの子分、二番に腕のいい仕立て屋、やっと三番に一応は神官というところだろう。
 どんな村にでも町にでもあるというアルテナ様の像に祈れば、完璧な癒しを得ることができるこのルナで、不完全な癒しの祈りしかできないティオの、神官としての力が必要とされることは、まずないといってもいい。
 レミーナは、ずいと自分の顔をティオに近づけた。
「それは無理ね。だって私、ヴェーンのアルテナ様の像を、神殿の中に囲い込んで、祈るたびに料金を取るなんてこと、絶対にさせる気がないんですもの」
 ズドーンと落ち込むティオを、一応ラムスは、励ました。
「まあまあティオ君。レミーナちゃんはレミーナちゃんなりに、ティオ君の将来のことを、考えてるんだから。ね」
 ティオは一応、最後の無駄な抵抗をする。
「怪物退治で、なぜ神官の実力が伸びるっていうんですかー」
 もちろんレミーナは、さっぱりきっぱりニッコリ元気に宣言した。
「だって、人助けじゃない」
 ティオは釈然としないものを感じたけれども、それ以上反論することはできず、そのままレミーナがメリビアでの仕事を終えた後、2人はカリスへと出発したのである。

 ラムスの紹介で、カリス方面からメリビアへ作物を売りに来た農夫の帰りの馬車(スピードは、徒歩と変わらない)に便乗させてもらって3日、徒歩で半日。
 ごく平凡な、ルナのありきたりな農村が見えてきた。
 まず村長を訪問する。
 村長の家で、最初に応対に出てきた太ったオバサンは、レミーナとティオを胡散臭げにジロジロ見まわした。
 そりゃ、そうだろう。
 「怪物退治に来ました」と言う14才の女の子と13才の男の子を、はいそうですかと受け入るのは、このルナ広しといえど、ヴェーンのミリアぐらいのものである。
「怪物退治は子供の遊びじゃない。忙しいんだから、帰った帰った」
 オバサンは、かったるそうに、こう言って、シッシと二人を追い払うしぐさをする。
 レミーナだって、自分たちがもろ手を上げて歓迎してもらえるとは思っていない(なにせ、そういうのを度々追い返す立場にいるのである)が、だからといってこの態度にムカッと来ないわけではない。
「メリビアから3日もかけて来て、はいそうですかと帰れるもんですか。とにかくあなたじゃ話にならないわ。村長に、ヴェーンのレミーナ・オーサが来たと伝えなさい」
「レミーナさーん」
 堂々と胸を張ってそう次げるレミーナの隣で、もちろんティオはオロオロしている。
 オバサンは、そう聞いても、投げやりにフンと鼻を鳴らしただけだった。
「ヴェーン? オーサ?」
 レミーナの言ったことを、まるきり信じちゃいないということを、隠そうともしなかった。
 さてここで、このオバサンが、なぜメリビア経由で、徒歩で4日半しか離れていないヴェーンのことを知らないのかと、不思議に思う向きもあるだろう。
 ところが、電話もなければ電車もなく、おまけにちゃんとした地図もなく、ノロノロと馬車が通れる道すでに立派な街道というルナでは、徒歩3日が知ってる範囲のボーダーライン。
 そこから先となると、航路や街道に接したメリビアのような大きな町が噂として知られるだけで、カリス村や、ヴェーンのような、街道にも面していない村や町のことなど、行商人でもなければ知りもしない。
 一方ルナの人々にとって、ヴェーンやオーサの名は、子供のころ瞳輝かせて寝物語にねだる物語に、必ずといっていいほど登場するのだ。
 レミーナは、ちょっと困った顔をして、ポリポリと自分の髪を、かきむしる。
 あまり「黙っていさえすれば美少女」には、ふさわしくないしぐさだけれども、オバサンから見れば、自分たちが「伝説かぶれのお子様二人」にしか見えないことは、よーくわかっていたからだ。
 それでもオバサンが、二人の目の前でピシャリと扉を閉めてしまわなかったのは、ティオの神官服の威力である。
 レミーナの魔法使いの服など、今のルナでは変な服でしかないけれども、神官服はどこでも通用するルナ全土共通の身分証となる。
 女神が実在する世界では、偽魔法使いや、偽勇者ならともかく、偽神官は存在し得ないからだ。
 レミーナは、しかたがないと指を一本立てる。
 そして小さく呪文を唱え、小さな炎をその指先に出現させた。
 オバサンは、またも鼻を鳴らす。
 ルナでは、魔法の一つも使えない方が、珍しい。
 レミーナは、呪文を唱えてもう一本指を立て、その指先に小さな青い光を出現させた。
 オバサンは、オヤ? という顔をする。
 生まれつきの魔法は、一つきり。
 他の魔法を覚えるには、特別な素養と修行が必要となる。
 レミーナはさらに呪文を唱えて、三本目の指を立て、その指先に小さな無数の氷の結晶が、くるくると舞うエリアを出現させた。
 オバサンはすでに、どんぐり眼を見開いている。
 たいした魔法ではないけれども、レミーナは、ルナの一般常識を超える魔法を越える魔法を使って見せて、自分が魔法使いであることを、証明しようというわけだ。
 ヴェーンにやってくる、レミーナを見くびる偽勇者たちの前でよくやってみせる、デモストレーションの一つである。
 だけどオバサン、レミーナの魔法にはそこそこ驚いたものの、魔法を3つも使えるということが、どれくらいスゴイことなのかについては、知らなかったらしい。
「それが、どうしたってのさ」
 常識を知らない相手に、非凡なことをして見せたって、その違いはわからない。
 レミーナは、ウーンと唸ってから呪文を紡ぎ直し、その手を真横に突き出した。
 とたんに火と氷の魔法が消え、光の魔法が昼なお煌々と輝きだす。
 光球は等身大ほどに膨れ上がり、白い光の人型の姿となったとたん、新たに現れた赤い光の竜に飲み込まれ、それを急成長する緑の光のツタが覆い隠し、その合間に現れた黄色い光のツタの実が膨れ上がってツタに置き換わり、そしてひときわ強く輝きながら多数の小さな光球に分裂し、四方八方に飛び散って・・・消えた。
 もちろん、これほど変幻自在に扱える天然の魔法なんてのはなく、レミーナの才能と修行の賜物ではあるけれども、火や氷の魔法と比べれば扱いやすい、実態のない光の魔法を一ひねりした、見かけだけのいわばコケ脅しである。
 だけど、この方がオバサンには効果があったようだ。
 最後の光球がとびちるところで、オバサンは尻餅をついていた。
「村長に、取り次いでくれないかしら?」
 オバサンは、コクリと頷いた。

 村長は初老の・・・いや、老け込んだ壮年の男性で、幸いなことにメリビアの向こうにヴェーンという、伝説のオーサ家の末裔が治める町があることだけは、聞き知っていたが、それでもレミーナとティオについては、ほとんど信じるつもりはなさそうだった。
「で、そのヴェーンのオーサ家の者が、カリスに何の用だ?」
「怪物退治に来ただけですわ。賞金付きの怪物が出たと聞いたので」
「ほう? 魔法ギルドが怪物を退治してくださると? 最近、魔法ギルドが何かをしたなど、噂にも聞いたこともない」
「何かするほどの事件が、起きませんでしたもの」
 村長は、少し黙り込んで、頭の中で、この目の前の二人と、今自分たちが抱えている問題を、秤に掛けた。
 少女は、たしかに常人以上の魔法を使う。
 物怖じしない堂々とした態度は、昨日今日で身につくものではなさそうだ。
 だからといって、それがカリスの怪物を退治するのに、どう役立つのかはわからない。
 それに、魔法使いの連れが神官というのも、不思議な組み合わせだ。
 神官が一緒なら、ある程度信用してもいいかもしれないが、この神官はどう見ても、少女よりもさらに子供だ。
 姉弟だろうか? そう見えなくもない。
 村長は、その疑問を口にする。
「なぜ魔法使いが一人で、その連れが神官なのだ? なぜ大人が来ないのだ?」
「それが伝統ですもの。様々な伝説に伝わる通りですわ」
 これに嘘はない。
 ルナに伝わる多数の伝説の中で、常に英雄は、少年少女時代に旅を始め、様々な苦難を自力で乗り越えながら、力をつけていくことになっている。
 そのためルナの英雄に憧れる少年少女は、旅を夢に見るし、また神官であれば、そうした活動が修行として推奨されていて、今でも珍しくはない。
 もちろんティオが単身ヴェーンへ派遣されてきたのもその一環だし、もしカリスへ来たのがティオ一人だったら、オバサンも村長も(この子には無理だとは思うだろうが)納得しただろう。
 つまり村長の不審は、魔法使いなんてまだいたのか? という点に、集約される。
 だけど、この少女は本当に魔法使いらしい。
 なら、伝統通りに少女と少年だけで、怪物退治に来たとしても、不思議はないということになる。
 それに、まあ、どうせ相手は子供である。
 滞在させるだけなら大した出費でもないし、ダメもとでもいいじゃないか。
 村長はこうして自分を納得させた。
「では今日から3日間、部屋と食事を提供しよう。それ以降のことは3日後に決める。大きさに関係なく、1匹14シルバー。ただし賞金は100匹単位で、それ未満は切り捨てだ」
 ということになったのである。
 レミーナに、異存はなかった。

 余談。
 村長は、レミーナとティオを姉弟だと思ったのか、与えられた部屋は一つだった。
 もっとも、部屋数の多いオーサ家や、ラムス商会ならともかく、猟師のダタクの所では、ダタクも含めて雑魚寝だったし、宿に泊まるときも、レミーナはわざわざ部屋を2つ取るような無駄使いは、したことはない。
 まあ、レミーナが着替える時は、ティオが追出されるのは当然だし、ベッドが一つしかないときは、ティオが床に寝るのも当然として・・・。
 ティオにとっては、レミーナと同じ部屋で寝るというのは、ちょっと厳しい展開である。
 いやもちろん恐いとか、そういうんじゃなくって。
 でもってもちろん、レミーナにはそれを言い出せないでいたりするのである。

 でまあ、村長との交渉を終えたレミーナは、早速ティオと一緒に、あのオバサン(リンダさんというそうだ)に案内されつつ、14シルバーの怪物を見に行った。
 怪物は、畑でゴロゴロしていた。
 子供が両手を広げたほどの直径がある、緑色の饅頭といった外見である。
 村人たちは、青丸虫と名づけていたが、もちろん虫ではなさそうだ。
 それが畑のここかしこで、どこに口があるのかはわからないけれども、畑の作物の残骸を、ゆっくりと食べている。
 作物は食べ尽くされて、残骸しか残っていない。
 しかも合間に雑草が残っているところを見ると、結構なグルメらしい。
「いつ頃から?」
「20日ばかり前かね。最初は指先ほどの大きさだった。棒切れでつまんで捨てようとしたら、いきなりベタッと跳びついてきて、このありさまさ」
 リンダオバさんの手は、土と日と水仕事に焼けた典型的なゴツイ中年農婦の手だが、中ほどから指先にかけて肌が瑞々しいピンク色をしている。
 つまりその部分が怪物に食われ、アルテナ様の力で癒されたばかりというわけだ。
「どれくらい跳ぶんですか?」と、レミーナ。
「跳びつくっていうより、腸(ルビ:はらわた)を吐き出してくるって感じだよ。直径の10倍は来るね。それに触れると、肌がジュッって溶けちまうんだ。最初は小さいのを長い棒で突き殺してたんだが、あっというまに大きくなって棒の長さが足らなくなったのさ」
 レミーナは自分の手帳に、『攻撃範囲は、体長の10倍』『棒で突き殺せる』と書きつけた。
「弓は試されましたか?」
「あぁ。弓に、投げ槍に、急ごしらえの投石機。なんでも試したよ。だけど青丸虫の数が多すぎるし、ちゃんと当てられるのは猟師たちぐらいのもんだ。真中にブスッと刺さらないと、死なないんだよ。しかも死ぬまで半日はかかる。いつまでたっても終わりゃしない」
「現在、どんな対策を取ってますか?」
「被害が少ない村の北側の畑を守るために、村の真中に堀を掘ってるよ。さっさとやりゃあよかったのに、どこで線を引くかでずいぶんもめて、遅れたんだ。あと、弓やなんかを使える連中と、ましな魔法が使える連中も、北側にいる。南側を捨てて、北側を守ることにしたんだよ」
「どんな魔法を?」
 リンダオバさんはそのとき、少し自嘲ぎみに笑った。
「あんたみたいな、スゴイ魔法を使えるヤツはいないけど、子守唄と、苦味と、冷や水がいてね、がんばってるよ」
 魔法についての表現は、村人による愛称であるため、レミーナにはどのようなものか、わからない。
「もう少し、どういう魔法を、どのように使ってるか、詳しく教えてください」
「本当に眠くなる子守唄を歌えるヤツがいるんだ。効くのは子供相手だけだが、大人でもかなり眠くなるんだよ。怪物が寝たところを、ヤリでブスリとやる。歌いながらヤリを持ち歩いているヤツがそうだけど、それを聞くとまわりの連中まで眠くなっちまうのが、難点だねぇ」
 レミーナは、『聴覚あり』『眠る』と、メモを取る。
「苦味ってのは、他人の口の中を、いきなり苦くできるんだ。青丸虫は苦いのが嫌いらしくてね、作物を食べようとしたときに苦くしちまうと、食べるのをやめる」
 さらに『味覚あり』『苦味を嫌う』と、メモを取る。
「あと、水を冷たくできるヤツがいてね、こいつは北側で、小さい青丸虫を退治している。作物に冷たい水をぶっかけると、葉の裏なんかに隠れてた小さいヤツがポロポロ落ちて、逃げ出すんだよ。あんまりやりすぎると、作物が育たなくなるけど、やらなきゃ丸ごと食われちまうだけだからねえ。ま、そんなもんかね」
「レミーナさんの、冷たい水差しみたいな魔法ですね」
 と、これはティオの感想。
「その手もあるわ」
 とレミーナはティオに答えつつ、手帳に『寒暖を認識』『冷水が苦手』と、メモを取ってから、リンダオバさんを見た。
「ちょっと実験してみますわ」
 そしてレミーナが呪文を唱えると、畑の真中にいたひときわ大きな青丸虫の上に、白い霞が現れたと思う間もなく、霞は人の背丈ほどもある一本の氷柱へと凝縮し、そのまま空中に留まることもなくストンと落下し、見事に青丸虫を貫いた。
 青丸虫は、闇雲に反撃しようと、触手なのか胃袋なのかを四方に伸ばしては縮めしていたが、離れた場所にいるレミーナが、その原因とは、思いもよらぬようである。
 やがて青丸虫は、青黒く変色し、動かなくなった。
「おやまあ! 槍で突いてもなかなか殺れなかった青丸虫が、あっという間に死んじまったよ! さすが魔法使いのやることだねえ!」
 レミーナは、『冷水が苦手』の隣に、『氷系の攻撃魔法が効果的』と書きつける。
「まあ、これで一体一体倒していくのは面倒ですから、もっと効率的な方法を考えることにしますけどね」
 もうレミーナは自信満万で、どうやらリンダオバさんもそれを感じ取ったらしい。
「期待してますよ。魔法使いのお嬢さん」
「あのぉ・・・」と、ティオがリンダオバさんを見上げた。
 リンダオバさんは、レミーナよりもティオよりも背が高いのだけれども、ティオの場合だけ、いかにも見上げたという印象になるところが、面白い。
「なんだい?」
「あの、ボクたちのほかに、余所から怪物退治に来た人は、いないんですか?」
 リンダオバさんは、肩をすくめた。
「来たことは来たけど、地道でな仕事と知ると、みんな帰っちまった」
 それからリンダオバさんは、はにかみながら笑ってこういった。
「最初はあんたたちも、そういう手合いかと思ったよ。派手に怪物退治をして、手軽に稼いで、勇者を気取りたい連中の仲間だろうってね。・・・わるかったね」
 などと、最初とは手の平を返すように、態度を変えている。
 いや、本来は田舎の気のいいオバさんなのだろう。
 ただ、この青丸虫と、冷やかしの冒険者への対応で、イライラしていたというわけだ。
 レミーナだって、ヴェーンへやってくる自称勇者を追い返すうちに、かなり性格がキツくなったと、近所の人たちも言っている。
 ・・・いや、これはもともとだという説もあるけれども。
 そしてレミーナは、さらにいくつか実験し、その晩青丸虫対策本部(村長さんの家の一室)で、作戦を披露することした。
 事前にリンダオバさんが、かなりレミーナのことを大げさに言いふらしたため、青丸虫退治で疲れきっているにも関わらず、大半の村人が、レミーナの話を聞きに集まっている。
 期待もあったかもしれないが、魔法使いを名乗る変な女の子見たさというところだろう。
 レミーナは、小さくなっているティオを従えて、村人たちの前に立った。
 ティオは、それだけでビビってしまっているようだけれども、魔法ギルドの当主にして、ヴェーンの町の代表も兼ねるレミーナは、慣れたものだ。
 劇的効果を狙って、いきなりこう言った。
「私が魔法の如雨露を用意します」
 レミーナの言葉に、村人たちはザワつく。
 ・・・さすがに、すでにレミーナの立場を理解しているヴェーンの人々相手には、こんなことはしないけれども、初対面の相手に、14才の女の子ということで見くびられないためには、まず自分のペースに巻き込むことが、話し合いを有利に進めるということを、レミーナは体験から学習していた。
「ただの如雨露じゃないか」
 と、村人の誰かが言った。
 その通り、村長さん家の裏庭に転がっていた如雨露である。
「私が魔法を掛けて、魔法の如雨露にしたものです。中の水に手を入れてみてください」
 リンダオバさんが、その如雨露を持って、村人たちの間を回りはじめた。
 如雨露の中に半分ほど入っている水は、氷のように冷たくなっている。
 再び村人たちが、ザワついた。
 魔法の力を物に移すという技は、たとえそれが一時的な効果であるとしても、素質に恵まれ、専門教育を受けていないとできない、魔法使いの技だからである。
 この時代の、田舎の普通の村人ともなれば、魔法使いには、そんなことが出きるということすら、知らなくても不思議はない。
 もっとも、素質に恵まれ、専門教育を受けた神官たちの手による、奇跡を込めた活力の薬や、解呪の護符、毒消しなんかは出回っていて、根本的にはそれとさほど変わりはないのだけれども、まあ、魔法使い自体が珍しい時代なのだから、その技が珍しがられるのも、しかたがあるまい。
 村人たちのザワザワが収まりかけたのを見計らって、レミーナは先を続けた。
「この如雨露に入れられた水は、瞬間的に冷却されます。冷水のシャワーは、小さな青丸虫退治に、役立ちます。この如雨露の魔法効果は約半日持続しますから夕方まで持ちます」
 村人たちの中から、ほぉという、感嘆のため息が漏れた。
 ところがそれは、次のレミーナの一言で、小さなブーイングに変わった。
「1つにつき7シルバーです。希望者は朝、如雨露を持って、広場に集まってください。別にバケツでもかまいません」
 村人たちは、なんとなく、お金を取られるとは、思っていなかったからだ。
 その不満を敏感に感じ取って、自分が責められているわけでもないのに、ティオが更にオロオロしはじめる。
「あら、私への怪物退治の報酬だって出来高払いの1匹14シルバーだし、7シルバーっていうのは破格の値段なんだから」
 と、レミーナはちょっとかわいく、すねて見せたけれども、それで村人たちが納得したかどうかは、わからない。
 しかも村人たちには、その7シルバーが、高いのか安いのかも、さっぱりわからなかった。
 ちなみに、メリビアでレミーナに冷たい水差しを作ってもらうには、封印付きで1点10シルバー。ただしラムス商会が仲介料としてうち2シルバーを取るので、レミーナの手取りは1点8シルバーである。
 かなりのお金持ちは、そのまま水差しを水差しのまま使っているけれども、食堂なんかだと、1つの水差しで冷たくした水を、別の普通の水差しに入れて客に出すので、そのための経費は1日10シルバーですむ。
 一般家庭で冷水だけに1日10シルバーというのは、ちょっと割高だろうが、特別の日とか、食堂の客寄せのための費用としては、まあ、そこそこの額なのではないだろうか?
 ちなみにこれを、行商人にメリビアからこの村まで持ってきてもらったら、20シルバーか30シルバー、40シルバーになっても、おかしくはない。
 ・・・なんてことは、ここに集まった村人たち誰一人として、知ったこっちゃないけれども。
「それはそれとして」
 と、レミーナは話を戻した。
「魔法の如雨露は村の北側で使ってください。私は南側で、青丸虫をまとめて退治するための作戦に入ります」
「氷柱でブスッ! ってやつだね!」
 と、これはリンダオバさん。
 自分のことのように、興奮している。
「ええ、基本的にはその手で行きますけど、効率的にやるつもりですわ」
 と、レミーナ。
 それからレミーナは、その手順について説明したが、魔法的専門用語が多く、村人たちにはあまりよくわからなかったようだ。
 だからレミーナは、「いいというまで、北側の指定の場所には、入らないように」と、村人たちに念を押して、話を終えた。

 レミーナはせっせと働きはじめた。
 まず朝、村の広場に集まった人たち相手に、如雨露やバケツに魔法をかけまくる。
 この広場には、アルテナ様の像があるので、魔法力を使い尽くす心配はない。
 だけどちょっと、村人たちの中には、「如雨露だってオレたちのだし、魔法の源だってアルテナ様じゃないか」という不満も、あるようだ。
 そうできるようになるには、レミーナの素質や、アルテナ様の力だけでなく、それを開花させるための膨大な時間と努力あってこそなのだけれども、技術料が理解されにくいのは、私たちの世界と同じである。
 一方ティオは、マネージャーよろしく、集まった村人たちから、如雨露一つにつき7シルバーを、集めている。
 村人たちはレミーナの前に並び、魔法を掛けた如雨露やバケツを手に、次々と畑に向かっていき、次第に広場から人影は消えていく。
 残ったのは、レミーナの案内役になりきっているリンダオバさんと、ティオと、魔法使いを見に来た子供たちだけだ。
「これで一通り終わりね。さあ、出かけましょうか」
 と、レミーナが広場を離れようとしたとき・・・。
「あ、あのぉ」
「なによ、ティオ」
 見るとティオの後ろに半分隠れるように、7つか8つの女の子が、如雨露を持って立っていた。
「あらゴメンなさい。さあ、魔法を掛けるから、その如雨露を貸して」
「あ、レミーナさん。あの、この子、お金を持ってないんです」
「え?」
「村の南側の家の子なんですよ。畑が全滅しちゃって、家にお金がないそうなんです。でも、お父さんにお願いしてこいって言われて来たそうなんです。・・・ボクからもお願いします。魔法を掛けてあげてくれませんか?」
 レミーナがふとリンダを見ると、リンダもちょっと困った顔をした。
 子供たちが、レミーナがどう出るかと、じっと見守っている。
 レミーナは一瞬ムスッとし、それからその女の子に、優しく笑いかけた。
「あなたの家に、案内してくれる? ティオ、それからリンダさん。ちょっと仕事を始める前に、この子の家に寄ってきますわ。・・・それからティオ、この子の相手をしてやってね」
 レミーナたちについて来ようとする子供たちを、「この広場から出るんじゃないよ!」と、リンダオバさんが追い返し・・・アルテナ像の回りは、どんな危険もない聖域なのである・・・、レミーナはその女の子の家に、怒鳴り込んだ。
 ・・・何をするかと思ったら、なるほど女の子に、レミーナがその親を怒鳴りつけるところを見せたくはなかったから、ティオに相手をさせたのだ。
 レミーナいわく・・・。
「本当に困ってる人から、お金を稼ごうっていう気はないわ! けどね、子供をダシに使うそのやり方が、気に食わないのよ! 本当に必要でお金がないなら、あなたが私に頼むべきでしょうが!」
 はっきりいって、14才の黙っていればかなり可愛い女の子に、いきなりこれをやられると、誰でもかなりビックリする。
 ついでに言うなら、これをやられると、たいがいの大人、特に男は、たとえ自分に非があろうとも、怒り出す。
 女の子の父親も、そうだった。
 で、まあ、しばらく口ケンカがあり、決着がつくわけもなく、その間ティオは女の子と一緒に家の外でオロオロとし、リンダオバさんは、ビックリしていた。
 そして結局どうしたかというと、レミーナは大騒ぎしたあげく、エラそうに如雨露に魔法をかけてやり、一方的に「貸し」を宣言した上、プンプン怒りながら本来の仕事に戻ったのである。
 その帰り道、レミーナは怒りながら、ティオとリンダオバさんに、こうのたまった。
「だいたいね畑が全滅してるのに、小さい青丸虫にしか効果のない魔法を掛けてもらいたがるのも不自然だし、村のみんなが力を合わせて、堀を作ったり青丸虫を退治してるのに、大の大人が家でゴロゴロしながら待ってるだけっていうのも、おかしいでしょーが」
 リンダオバさんが、難しい顔でため息をついたところを見ると、どうやら、まあ、心当たりがあるようだ。
 一方ティオの方は、あ、そうかーとでもいうように、ポンと手を打ってから、悲しそうな顔をする。
「でも、あの女の子に迷惑がかからないといいんですけどー」
「そうよねぇ」と、レミーナ。
 その後、レミーナは村長さんと相談したところ、翌日から如雨露の魔法代は各個人ではなく、村費から出すことになったり、その女の子が結構ティオになついたりしたが、それはそれはおいといて・・・。
 レミーナの計画は、こうである。
 まず、被害の大きい南の畑のまわりの大地そのものに、4日持つ氷の魔法を掛けて歩いた。
 ・・・いくら威力を弱くし、そのエリアに入ると、なんとなく足元が涼しくなる程度だったけれども、レミーナにはかなりの負担である。
 そこを、アルテナ像参りをしながら頑張って、2日かけて魔法の円を作り上げ、そして翌日からは外側かららせん状に、エリアを狭めはじめた。
 内側になるほど円周は縮み、一周にかかる時間も減り、魔法の効果も高くしていくことができる。
 また村長も、レミーナの滞在延長を喜んで認めた。
 村の北側での、如雨露作戦の効果が、しっかりと現れはじめたからである。
 4日目、一番外側の魔法の効果が消える頃には、すでに内側の円が完成し、日々その円は中心部へ向けてせばめられていく。
 レミーナの進路にいる青丸虫の大きいのは、個別に凍らせたり、氷柱で串刺しにしたし、小さいのはもうエリアに掛けられた氷の魔法で動けなくなったところを、ティオとリンダオバさんやら、その他村人何名かで、これまたレミーナが氷の魔法を掛けた、先を尖らせた長い棒で、一つ一つつぶして歩いた。
 ・・・もちろん、この棒も、1本7シルバーで、村人たちに提供された。
 でまあ7日目の昼には、村の南に残った青丸虫は、ごく狭い範囲に集められ、それ以外の青丸虫は、ほとんど姿を消していたのである。
 その中は、大小様々の青丸虫が、半ば重なり合いながら、うごめきまわっている。
 その周辺の大地は、霜柱が立つほどの冷たさで、青丸虫の逃亡を妨げていた。
 レミーナは、自らの作戦の成功に、うっとりした。
 気の遠くなるような、地道な作業の成果が、目の前に積み上がっているのである。
 1匹14シルバーとはいえ、これだけいれば充分。
 すでに青丸虫が、シルバーに見えていた。
 レミーナは満足して、最後の大イベントを見ようと集まってきた村人たちやティオを残し、広場のアルテナ様の像に、お参りに行く。
 魔法力を完全に回復してから、あとはあらん限りの力を振り絞って、氷系攻撃魔法の連続攻撃を行い、青丸虫を殲滅させる作戦なのである。

 ところが、この、ほんの僅か、青丸虫から目を離した間に、事は起きた。

 レミーナがアルテナ様にお参りをしている時、突然南の、青丸虫エリアのある方角から、地鳴りが聞こえてきたのである。
 飛んで帰ったレミーナが目にしたものは、無残にも? 倒されきった、青丸虫たちであった。
 そして村人たちは、村の外へ続く道に向かって、力いっぱい手を振っていた。
「ティオ! 何があったの!」
「レミーナさん! 聞いてください!」
 ティオが、満面の笑みを浮かべながら、子犬のようにレミーナに掛けよってくる。
「聞いてください! レオさんが、来てくれたんです!」
「・・・誰よ、それ」
「ほら、ボクをヴェーンまで護衛してくれた、アルテナ神団の戦士の人です」
「・・・知らないわよ」
「で、ほら、ここに来る前に、メリビアで、知人に会ったって言ったでしょ? それ、レオさんなんです。そのとき、カリス村に怪物が出たっていう話を、したんですよ」
「・・・それで?」
「ついさっき村へ来て、魔法剣で青丸虫をやっつけたんです! それで、ボクに、アルテナ神団のことを村人たちに話す役割を託してくれて、颯爽と去っていったんですよ!」
 リンダオバさんも力説しはじめた。
「いやー、あんなカッコいい戦士は、初めて見たよ。獣人族の若い男でね、剣を振りまわすと、それがビカビカ光って、そうするとそれに合わせて、あたりの小石が舞いあがったんだ。でもって剣を振り下ろしたとたん、石が雨アラレと青丸虫を貫いて、あっというまに全部やっつけちまったんだよ!」
 魔法がありふれたルナでは、魔法を使うからといって、魔法使いとは、限らない。
 少数ながら、生まれながらの魔法を磨き上げ、それを自分の仕事に役立てる者がいる。
 いや、使い道が見つけたなら、自分の魔法=素質に合った仕事を選ぶといっても、いいだろう。
 いわく、風を操る船乗り。
 いわく、味を操る料理人。
 いわく、色を操る染物屋なんていうのもいる。
 様々な魔法を、剣に込めて戦う戦士も、少なくはない。
 レオも、その一人なのだろう。
 だけどレミーナには、そんなことはどうでもよかった。
 レミーナは、集まった村人に向かって、アルテナ神団の偉大さを語り始めたティオをほっといて、村長に尋ねた。
「・・・こういう場合は、どうなるんです?」
 村長は、ウーンと唸った。
 そのわずかな間に、様々な計算をしたことだけは、確かだろう。
 そして、重々しく、こう言った。
「あなたが倒した青丸虫1匹に対して14シルバー。10匹未満は切り捨てという約束でしたなあ」
「じゃあ、これは・・・」
 と、レミーナは青丸虫の残骸を指差す。
「数に入れることは、できません」
 レミーナは、大きなため息をついて、空を見上げた。
 ほぼお昼時の青き星は、ほとんど空の色に溶け込んでしまっている。
 リンダオバさんのスゴイスゴイというお喋りと、ティオの熱心な布教を背中に聞きながら、レミーナはもう一度ため息をついた。
 ・・・あの、ほとんど見えない青き星は、今の魔法ギルドの姿なんだわ。
 そしてレミーナは、3度目のため息をついた。



 で、その後のことである。
 村人たちの中には、一見タダにしか見えない魔法を売るレミーナに反感を抱く者もいたため、村長はレミーナに、最後の最後でレオに持ってかれた分についての報酬を、村費から支払うことは、したくてもできなかった。
 レミーナがいなければ、・・・青丸虫が一箇所に集められ、しかも寒さと飢えで弱っていなかったら、いかような魔法剣の使い手であっても、青丸虫を一掃することはできなかっただろうと、村長は理解していたからだ。
 だけど魔法剣を使う戦士のカッコ良さに魅せられた村人たちは、報酬を支払相手はあの戦士だと、主張したのである。

「ほんとうに、すまんね」
 村を去る直前、そう言いながら村長は、レミーナにそっと皮袋を渡した。
 シルバーの重みを感じて、レミーナは驚いた。
 そっと覗いてみると、100シルバー硬貨が、ざっと30枚は入っている。
「これは?」
「私のポケットマネーでは、賞金ほどは出せないが・・・」
 こうやって下手に出られると、思わず遠慮深くなるのが、人間というものである。
「いいえ。如雨露でいくらか稼ぎましたし」
「だけどそれじゃあ、ここまでの旅費ぐらいだろう。受け取っておくれ」
 そして村長は、ちょっと言葉を区切って言った。
「もしまた、何か事件が起きたら、また来てくれるかね?」
 レミーナはニッコリ笑った。
「はい。でもそのときは、契約金と日給で、お願いしますね!」

「ふーん。そんなことがあったわけ」
 と、ラムス。
 カリスからヴェーンへ帰る途中の、メリビアのいつものラムス商会だ。
「約束を守るのは商売の基本だけど、そんなに簡単に引くなんて、レミーナちゃんにしては珍しいね」
「そうはいっても、村長さんの気持ちも、わからないじゃないのよね。村長といっても、ううん、村長だからこそ、村人の意向は無視できないのよ。それにカリスはすでに、ものすごい損害を被ってるの。村の畑の半分が壊滅したのよ。1シルバーでも出すものを惜しまないと、食べていけないわ。それに村長さんが個人で300シルバー出した気持ちも、負担も、わかるしねぇ」
「ふーん。なるほどねえ。それはレミーナちゃんが、ヴェーンの代表じゃなければ、わからないことだと思うよ。だけどティオ君は、アルテナ神団への寄進なり、その神団の戦士が貰うはずの賞金を手にしたんじゃないのかい?」
「それがね、村の人たちはティオのこと、まるっきり私の連れだと思っちゃってるから、全然だったみたいなの。ね」
「はい。ボク、せっかくレオさんがくださった機会まで、無駄にしてしまって・・・」
 ティオの声は、消え入りそうだ。
 ラムスがいつものように、ニコニコ笑顔でティオの肩をポンポン叩く。
「まあいいじゃないか。怪物退治で神官修行ができたと思えば」
 ティオは、泣きそうな顔で、ラムスを見上げた。
「え? それじゃあ・・・」
 ラムスは視線で、レミーナに問いかける。
 レミーナは、小さく頷いた。



レミーナのお小遣い帳

 今回の収入
    カリスでの魔法売上  301シルバー
    カリス村長さんから 3000シルバー

 今回の支出
    カリスへの旅費    300シルバー

 今回の収支 プラス3001シルバー
       ※1シルバーは百円前後。