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アレクサンドル・ベリャーエフ 作
「両棲人間」

Александр Беляев
Человек-Амфибия


ネタバレ注意


短いあらすじ

男女逆転人魚姫


あらすじ

2003.10

 アルゼンチンの漁師町。海と海辺で奇妙な事件が次々と起こり、当局は海の悪魔の噂を打ち消そうと、やっきになっていた。
 真珠取りのボス、ズリタは、その海の悪魔を目にし、真珠取りに利用できないかと考え、インディオの老真珠取りバルタザールと共に、捕獲しようとする。
 しかし海の悪魔は、金属製の網ですらナイフでやすやすと切り裂いて、逃げてしまうし、その住処と思われる海底洞窟は、鉄格子の扉がついている。
 ズリタは、その近くに住むサルバトール博士を怪しいと睨む。サルバトール博士は、天才ではあるが変わり者で、インディオの治療を引き受ける他は、ほとんど高い塀をめぐらした海辺の広大な研究所に閉じこもっていた。
 バルタザールの兄クリストが、計略をもってサルバトール博士に雇われ、信用されることに成功しつつあった。クリストは、少しづつ研究所の秘密を知っていく。
 サルバトール博士の研究所の内部も、いくつもの塀でくぎられており、そこにはいくつもの動物を繋ぎ合わせたような、異様な姿の動物たちがいた。
 そしてついに、海の悪魔と呼ばれている、イフチアンドル青年に引き合わされた。
 彼は、サルバトール博士によって赤ん坊のころにフカのエラを移植され、水中でも地上と同じように、息をすることができるのだ。ただし完全ではなく、あまり長く地上にいることはできなかった。
 そして海と、この研究所で育ったイフチアンドルは、海のことや、学問については知識があったけれども、日常的なことを、まるで知らなかった。
 クリストの見立てによると、イフチアンドルはサルバトール博士をお父さんと呼んではいるものの、その顔立ちはスペイン人であるサルバトール博士よりも、クリストたちインディオに似ているようでもあった。イフチアンドルという名前も、スペイン風ではない。
 イフチアンドルは、ある日溺れている娘を助けるが、自分の異様な姿(潜水服と水中眼鏡、そして手びれ足ひれ)に驚かれてしまい、すぐに姿を隠す。そこにズリタがあらわれて、自分が救ったように装ってしまう。
 イフチアンドルは、助けた娘が忘れられない。
 クリストは、サルバトール博士が留守の間に、そんなイフチアンドルに町に探しにいこうと誘う。もちろん、彼をズリタに引き渡すためだ。
 イフチアンドルは、町の騒々しさと、長時間の肺呼吸に疲れてしまう。
 クリストは、一休みしようとバルタザールの店に連れ込む。
 が、一瞬眼を離したときに、イフチアンドルは一人で店を飛び出し、海へ帰ってしまう。
 バルタザールの養女、グッチエーレこそが、イフチアンドルが探していた娘であり、彼はグッチエーレを見て、驚いて逃げてしまったのだ。
 その後、イフチアンドルは一人で海辺に出かけるようになり、グッチエーレと、そしてオルセン青年に出会う。
イフチアンドルは、オルセンがグッチエーレの恋人だろうと考えたり、真珠をプレゼントしようとしたりして、グッチエーレと親しくなっていく。
 グッチエーレも、常識はないが純真なイフチアンドルに引かれ、二人は定期的に海岸で会うようになる。
 しかしグッチエーレは、以前からズリタに言い寄られていた。バルタザールはグッチエーレとズリタの結婚に積極的で、グッチエーレはオルセンに、家出の相談を持ちかけていたのだ。
 一方、イフチアンドルは友達のイルカのリーディングを漁師から助けようとして、怪我をする。その治療をしたクリストは、イフチアンドルの肩の痣を見つける。
 そして傷の状態が思わしくないイフチアンドルとグッチエーレが会っているところに、ズリタがやってきて、グッチエーレを花嫁と呼び、強引に連れていこうとする。
 イフチアンドルは、グッチエーレがオルセンと結婚するのだと思い込み、また肺呼吸がつらくなって、彼女の目の前で海に飛び込んでしまう。
 それを見たグッチエーレはイフチアンドルが投身自殺をしたのだと考え、家出する気力も、結婚に逆らう気力も失ってしまう。
 その後イフチアンドルは、オルセンと出会い、誤解だったことや、自分の行為が誤解を与えたことを知るが、すでにグッチエーレは、ズリタと結婚してしまっていた。
 イフチアンドルは、グッチエーレに会うために川をさかのぼりズリタの家に行き、ズリタに捕まってしまう。
 クリストが、グッチエーレとイフチアンドルが恋仲であることをバルタザールに知らせ、グッチエーレとイフチアンドルが結婚でもすれば、ズリタではなくバルタザールが全てを手に入れ万々歳、と持ちかけるが、全ては後の祭りだった。
 しかしさらにクリストは、イフチアンドルが、バルタザールの実の息子ではないか、と言い出した。
 昔、母親の葬式のために実家へ行った帰りに急に産気づき、旅の途中で出産したバルタザールの妻は、バルタザールの元に帰る途中で親子ともども死んでしまった。そのとき付き添っていたのがクリストなのだが、実はクリストは、残った赤ん坊を助けてくれとサルバトール博士のところへ連れていったものの、そのまま死んだと言われていた。が、死んだ赤ん坊を見てはいなかった。
 ちなみにグッチエーレは、そのことで落ち込んだバルタザールのために、やはりクリストが見つけてきた養女であった。
 イフチアンドルの痣は、バルタザールの息子の痣とよく似ていた。が、クリスト自身は、イフチアンドルがバルタザールの息子だとは思っていなかった。ただこのネタでサルバトール博士に揺さぶりをかけて、金を巻き上げられると思っていた。
 しかし、バルタザールはイフチアンドルが自分の息子であるという考えに取り付かれてしまう。
 ズリタは、さっそくイフチアンドルを使って金儲けをしはじめていた。彼を船倉の樽に閉じ込め、鎖で繋いで真珠取りをさせるのだ。さらに沈没船を見つけて、その中の宝を取ってこさせようと考えたが、鎖の長さが足らない。そこで偽のグッチエーレの手紙を使い、彼を言いくるめて、船に潜らせる。
 しかしズリタの船の船員たちが反乱を起こし、さらに旅行から帰ってきたサルバトール博士が、クリストの通報とバルタザールの協力を得て、小型潜水艇でやってくる。
 こうしてイフチアンドルは、ズリタの手から逃れることができた。
 バルタザールは、息子イフチアンドルを取り戻そうと、サルバトール博士を訴える。その代理人は金目当てにその話をあちこちにばらまいた。
 結果、サルバトール博士は訴えられ、海の悪魔と共に話題の人となる。が、バルタザールの息子を返せという訴えには証拠がなく、法律的にはサルバトール博士にイフチアンドルを改造した以外の罪はない。
 しかし教会が横槍を入れてくる。神の創造物を、勝手に作り変えるとは許せないというわけだ。
 サルバトール博士は逮捕され、海の悪魔であるイフチアンドルも証拠として牢に入れられてしまう。サルバトール博士は、牢の中でも論文を書いたり、囚人や看守やその家族の治療をしたりしていたが、イフチアンドルは牢の中で健康を損ない続けていた。。
 裁判で、被告席のサルバトール博士は、自分の夢を語り、神父が虫歯の治療や盲腸の手術していることをばらす。
 結局サルバトール博士は罰せられるも重罪とはならず、イフチアンドルは被害者として後見人がつけられることになり、その座を巡ってズリタとバルタザールが争うが、ズリタが金の力でイフチアンドルを得るはずであった。
 バルタザールは、顔をあわせれば息子であるイフチアンドルと心が通うはずと、賄賂を使って面会するが、むなしく拒絶される。
 しかし、教会の意向でイフチアンドルは牢から出る前に暗殺されることになっていた。
 しかしサルバトール博士は牢でも尊敬されるようになっており、暗殺を命じられた看守が博士に暗殺をリークし、オルセンの協力も得て、イフチアンドルを逃がす計画が立てられる。
 そのオルセンのところに、ズリタの家を逃げ出してきたグッチエーレも合流。
 しかしイフチアンドルの体は、この一連の騒ぎの間に変質してしまい、もはや空気を呼吸できなくなっていた。
 海と陸とに引き裂かれた二人が会えば、つらくなるばかりだとオルセンはグッチエーレに告げる。
 イフチアンドルは牢から救出され、太平洋で海の研究をしているサルバトール博士の友人のもとに向かうため、海に逃れる。そこにいると知らないまま告げられたイフチアンドルから彼女への別れの言葉を、グッチエーレは岩陰で聞く。

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 イフチアンドルは、まず研究所に向かう。
 警察が、自分を待ち構えているかもしれないと思ったが、長旅にはどうしても必要な道具を、持ち出さなければならない。
 研究所には、昔からいる口のきけない黒人の老人ジムが、動物たちの世話をするために残っていた。
 そこに警察ではなく、もっと荒っぽいズリタの手下がやってきて、出発しようとするイフチアンドルを捕らえようとするが、ジムの助けでかろうじて脱出する。
 一方、この事件でサリバトール博士への監視は強化され、病人の診察も禁止された。
 ところが裁判所の検事が、癌の宣告をされ、精神的にまいってしまう。結局、サルバトール博士が手術することになり、手術は成功する。この経過は新聞に載り、人々は博士を賞賛した。
 裁判は、この業績を考慮せずに行われたが、結局禁錮3年だけれども執行猶予付きとなり、博士は研究所に戻ることができた。
 イフチアンドルは、イルカのリーディングと共に、南太平洋まで孤独な旅をし、目的地に到着する。
 サルバトール博士の友人、アルマン博士はすでに連絡を受けていて、イフチアンドルを家族ともども歓迎し、イフチアンドルは、イフチアンドルは、アルマン博士の研究所の水族館で働き始め、家族の温かみや、人間の友達や、研究所の一員として働く喜びを得る。
 やがて、サルバトール博士が手紙でここを訪れると連絡してくる。
 イフチアンドルは、その手紙にあった「おまえの父 サルバトール」という言葉をかみ締め、サルバトールが父親であることを、実感する。


 その後、サルバトール博士は研究を続け、クリストはそのまま博士の所で働き続けている。
 ズリタとグッチエーレは離婚し、ズリタはアメリカで真珠取りを続けている。
 グッチエーレとオルセンも、アメリカに渡って結婚し働いている。
 何もかもを失ったバルタザールは、正気を失って町をさまよい歩き、嵐が来るたびに海に向かって息子の名前をひたすら呼び続けている。