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(C)山北篤

スペオペ熱いシーン集

ヒーローの宇宙船登場シーン

「メイデイ…メイデイ…こちらは貨物船カイオウ丸、ロシュタイン星系第24ジャンプアウト宙域で海賊の襲撃を受けつつある。救援を乞う…救援を乞う…」
 その声は、超空間を越え、直径10光年内にある137の超空間通信機に飛び込んだ。その中には、1隻の連合宇宙軍巡洋艦と3隻のロシュタイン星系軍艦艇も含まれていた。
 しかし、最も近い艦艇は、その直前にSOSを受けて救助活動に出動していた。それは海賊の放った偽SOSであり、急行した艦長は机を叩いて悔しがった。
 残る3隻の内、1隻はメインテナンスのため係留中であり、急行したのは2隻にすぎなかった。急行といっても、ジャンプの計算に30分かかっていた。
 ジャンプアウトした連合宇宙軍巡洋艦ハンニバルの艦長バックハウス大佐は、舌打ちした。分かっていたけれど、せざるを得なかったのだ。カイオウ丸との距離は、まだ10万km以上離れている。光の速度でなら1秒もかかからないが、この船の最高加速の4Gをもってしても、1時間ちかくかかってしまう。再びジャンプして近づくには、3時間かかってしまうのだ。
 どんなに緻密な計算をしても残ってしまうジャンプ誤差。これが、ハンニバルとカイオウ丸を隔てている。
 星系軍の艦艇は、更に5万km離れているから、ますます間に合わないだろう。
 海賊の手の内は分かっている。ジャンプアウト宙域に潜んで、獲物がやって来るのを待つ。センサーにジャンプアウトが検出されれば、30分で計算してその場所へとジャンプする。わずか1光時の短距離ジャンプだ。ジャンプ誤差は1万km以下にすぎない。そんなもの、宇宙船にとって10分とかからない至近距離だ。
 対策も分かっている。ジャンプアウト宙域に、警備艦艇を置いておくのだ。そして、船がジャンプアウトしてきたら、常にその船の位置へのジャンプ計算を行っておく。たったこれだけだ。しかし、数多いジャンプアウト宙域全てに警備艦艇を置ける星系など存在しない。
「センサー、状況はどうか?」
「超望遠モードで、これが限界です。どうも海賊船はカイオウ丸のドライブをしとめた模様です」
 ぎりりっ…、バックハウス大佐の歯が軋む。
「……デイ……イ…こち……船カ………系第24ジャ…………頼む……助けて……」
 メイデイの声が途切れがちになる。
 何故だ。何故、目の前で海賊行為が行われているのに、何一つできないんだ。
 突然、超空間センサーが警告を発した。
「1時の方向上下角+13度。距離140万kmにジャンプアウトした船があります。民間船です」
「民間船だと?」
 誰もが怪訝な顔を隠せない。戦場に跳んで来たがる奴が、どこにいるだろう。
「きっと、星系外からの船だろう。警告を与えてやれ。ここは戦場だとな」
「はい、艦長。そこの民間船、現在この宙域は海賊が出現している。速やかに避難するように」
 しかし、帰ってきたのは意外な答えだった。
『ああ、分かってるって。だから俺達が来たんだからさ』
 内容の大胆さに相応しからぬ、若い声が艦橋に響き渡る。
「なんだと、おい………切れた。艦長、通信が切れました」
「なんだと、海賊の一味か?」
「さあ………あっ、再びジャンプしました!」
「何!……まさか」
 一度ジャンプした船は、次にジャンプするために3時間のエネルギーチャージを必要とする。それを無視することができるのは、ただ一つオリジナルドライブだけだ。
「ジャンプアウトを検出……、場所は海賊船の至近! 100kmと離れていません」
 暗黒の宇宙空間を、1隻の船が駆ける。光速の98%にまで加速された噴射剤が、5Gの加速度を絞り出す。その前方には、ドライブの止まってしまった貨物船と、新手の出現に戸惑っている海賊船がある。
 遥か遠くの恒星の光で、わずかに船首に書かれた文字が読み取れる。シェエラザード……、それがその船の名前だった。

頭の固い艦長

『警告する!! 貴船はただちにドライブを停止し、すべての回線をオープンにして待機せよ。この警告は銀河連合軍巡洋艦ハンニバル艦長バックハウス大佐が、連合航宙法第57条に基づいて発するものである。繰り返す。貴船はただちに………』
「と言ってますが。どうしやす、船長」
 40がらみの大男が、まだ少年っぽいところを残した若者に声をかけた。
「ええい、さっきから誤解だって言ってるのに、何で分からないんだよ。この石頭が」
 後ろの席に座っていた少女が、若者の叫びにくすりと笑い、からかうように声をかける。
「さあ。でも、石頭なら、あなただっていい勝負じゃない」
「俺の頭は物理的に固いだけだ。考え方は、やわらかいんだ!」
「で、どうするんですか、船長。逃げ出しやすか?」
 さすがに、この状態で黙って漫才を聞いていられるほど、大男も豪胆ではないらしい。
「相手は、500m超重巡ストライカー級だぞ。あの主砲を食らったら…」
「人生、終わりよね」
 若者は、腕組みをして考えた。
「あいつの弱点は、前方にしか主砲を撃てないってことだ。出力をアイドリングまで落とせ。奴が接舷して来る瞬間を狙うぞ。ノーマルドライブを停止させて、そのままおさらばする」
「それしか無いようですな」
「ああ、しかしいったいどこのどいつだ。あんな石頭を化け物船の艦長にしたのは!」

アステロイド決死行

「前方にアステロイドベルトよ」
 後方シートから、少女が警告を発した。
「避けられないか?」
「無理でさあ! 回り道してたら、時間に間に合いやせんね」
 若者の希望を、あっさりと中年の大男がつぶす。それを聞いて気落ちした様子も見せず、かえって面白そうに若者は笑った。
「そうか……、ここはやるしかねえだろうな。俺に命を預けてもらうぜ」
「と、言いやすと?」
「ほ、本気なの?」
 少女の方が、その若者の笑みを正しく解釈したらしい。
「そう、そのまさかをするのさ」
「アステロイドサーカス!」
 アステロイドベルトは、小惑星以外にも無数の浮遊物が漂う宙域だ。そのため、通常の惑星間速度で飛んでいたのでは、そんな浮遊物に衝突する危険が非常に高い。
 アステロイドサーカスとは、そんなアステロイドベルトの中を外宇宙速度でふっ飛ばそうという無謀なチャレンジをいう。もちろん、失敗したら小惑星に衝突して、即死することになる。
 最高の宇宙船に最高の整備をして、最高のパイロットが操船しても、その危険は甚だ高い。それを、図体のでかいジャンプ船で、あちこち被弾しつつやろうというのだから、無謀といえばこれ以上無謀なこともないだろう。
「………わかりやした。スラスターをエマージェンシーにしときやす」
「たのむ」
 一瞬にして、1つ目の小惑星の側を通り過ぎた。最接近距離だと10kmと離れていないだろう。宇宙空間に音がするはずはないのに、シュウンと通り過ぎる音がするかのようにすら思える。
「ひゃっほう、見やがれ。誰も追ってこないぜ」
「あ…あたりまえよ。放っておいても自滅するのを、危険を冒してまで追って来る馬鹿はいないわ」
 恐怖に引きつりながらも、皮肉を忘れないのは、いっそ立派と言っていいだろう。
「なあに、自滅するってのは、あいつらの希望的観測ってやつさ。その願いを聞いてやることも無いさ」
「そうなってくれればいいんだけどね……きゃああ!」
「おおっと、今のはかなりやばかったな」
「やばかったなじゃ無いわよ。3kmくらいしか無かったじゃない。ああっ、いいから前を向いて操縦してよ!」
「へいへい、でも、まだまだこの辺りは楽なもんなんだぜ。最奥部だと、毎秒違う方向から高Gがかかって、ひでえものさ。喋る余裕すら無いからな。おおっと、き…た…ぜ」
 急激なGに、若者の顔が歪む。少女は、ほとんど声も出ない様子だ。
「ひ……」

宇宙戦闘機発進

「それじゃあ行ってくる」
 そう行って若者は、耐Gシートから立ち上がった。一瞬の無重力を利用して、コックピットのドアのところまで跳ぶ。次の瞬間には、回避運動の激しいGが、剥き出しの肉体を苛む。
「ぐうっ!」
「大丈夫?」
「ああ、任せとけ。それより、シェエラザードのコントロールは任せたぜ」
「へい、行ってらっしゃいやし」
 若者は、回避運動の合間を縫って、すばやく移動する。回避運動の最中は、そのGのため、ほとんど動くことなど不可能なのだ。だから、噴射が止まる1秒ほどを狙って、その瞬間だけ廊下を跳ぶ。もしも、跳んでいる時間が長すぎたりすると、回避のGで、廊下の壁に叩きつけられる羽目になるのだから、若者の行動は非常に大胆なものと言えるだろう。
 そんな移動を続けて、わずか数10秒でハンガーに到着したのだから、若者の運動能力がいかに優れているかが分かる。
「モルダビアのコックピットに着いた。こっちは、いつでも発進オーケイだ」
「分かりやした。次の、インターバルで出てもらいやす」
「死なないでね」
 心配そうな声が割り込む。憎まれ口ばかり聞いていても、やはり気になるのだ。
「当然じゃないか。俺が、今まで帰って来なかったことがあるかよ」
 下手な冗談で紛らせるしかない事も、この世にはあるんだな。若者は、不意に気付いた。
「モルダビア、発進する!」


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