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(C)Yamakita Atsushi

ミニ地球見学記

環境科学技術研究所
閉鎖型生態系実験施設

2007年10月3日
 宇宙作家クラブで、青森県六ヶ所村にある環境科学技術研究所を訪問して、色々中を見せていただいた。そこで、せっかく撮影した写真を自分だけで持っておくのももったいないので、公開する。
 通常の人が入れない閉鎖型生態系実験施設の中まで見学させてくれたので、貴重な写真が撮れたのではないかと思う。
 環境科学技術研究所というのは、大きく3つの研究を行っているのだが、今回は主に閉鎖型生態系という世界でも珍しい実験設備と、それを使った研究を見せてもらったので(他もなかなか面白かったのだが、こちらが全部は消化し切れなかったので)、そこを紹介することにしたい。
 この閉鎖型生態系実験施設とは、空気も水も、当然あらゆる物質の出入りを禁止して、太陽光と電気エネルギーの補給だけで、生物がそして人間が生きていけるのかを実験するものだ。
 この実験は、地球環境のミニチュアとして、環境における物質循環(我々がはいた二酸化炭素→植物が吸って炭酸同化→植物を人間が食べるという循環)のサイクルを観察することができる(本来は原子力関連の研究所で、放射性物質の環境サイクルを観察するための施設らしい)。また、これが可能ならば、宇宙における長期居住でも、いちいち地上から食料や酸素を運んだりしなくても良くなる(少なくとも減らせる)。このように、色々な意義のある実験である。
 かつて、アメリカにバイオスフィア2という巨大な施設があったが、今は科学実験に使われていない(観光施設になっちゃったらしい)。このため、現在では世界でほぼ唯一の実験施設らしい。
 もちろん、完全閉鎖が理想ではあるが、実際にはなかなかそうもいかず、一部物資の出入りもある。けれど、出入りを極力減らすことで、閉鎖環境に近い環境として実験を続けている。

撮影 やまきた写真クリックで、大きな写真
 「しょっぱなから、屋根掃除って何だよ」と全く実験と関係なさそうな画像から始まってしまうのだが、もちろんこれも研究に重要な意味がある。
 閉鎖環境実験施設は基本的に太陽エネルギーを取り入れて、閉鎖環境の中で野菜などを育てている。つまり、屋根が汚れていると、予定通りの太陽エネルギーを取り入れることができないので、実験結果に大きな影響が出てしまうかもしれないのだ。
 そこで、屋根の窓を掃除するための足場をきちんと作ってあって、定期的に埃などを取り除き、規定通りの太陽光が施設に降り注ぐようにしてやるのだ。
 屋根のある建物の裏側。こっちは北側なので、太陽光を取り入れるようにはなっていない。
 その屋根の中にある、閉鎖環境の温室。我々が写真を取っているところは、外(閉鎖環境ではない)だ。その上にある斜めのガラス屋根が、上の写真で掃除してたところ。
 つまり、屋根の中のさらにガラスで覆われた部分だけが閉鎖環境になっている。明かりがついているのは、二重ガラスによって太陽光が弱められているので、それを補うため。
 この中で育てられた野菜を、中に住んでいる人(エコノートという、アストロノートが宇宙飛行士なので、エコロジー環境に行く人々という意味でエコノートと呼ばれているらしい)は食べる。
 厳密には、エコノートは、この農場でできた野菜しか食べてはいけないはずなのだが、なかなかそこまで厳密にするのは無理らしい。調味料とかは持ち込みのようだ。
 閉鎖温室の中で、植物の世話をしているエコノート。
 閉鎖環境温室の中で育っているカブ。カブ1本といえども、閉鎖環境の中で育てるのはすごく大変なのだ。
 なぜなら、植物は光合成によって、炭酸同化作用(二酸化炭素と水からデンプンと酸素を作る)を行う。ということは、環境の中の二酸化炭素と水が減少してしまう! 狭い閉鎖環境の中では、そうやって植物が消費する二酸化炭素の量は決して馬鹿にできないのだ。
 もちろん、それに対して閉鎖環境に二酸化炭素を発生させるものも存在する。そう人間だ。人間は酸素を消費して二酸化炭素を作る。
 この両者のバランスが崩れると、閉鎖環境の中で、二酸化炭素濃度が低下したり(植物が育たなくなる)、酸素濃度が低下したり(人間の生存が難しくなる)する。
 こちらは、葉もの野菜のようだ。奥のほうはマメ科の植物らしい。
 閉鎖環境温室のガラスの壁に取り付けてあるハンマー。
 もし、有毒ガスなどが発生したりして、エコノートの生命に危険のある場合、このハンマーでガラスを割って脱出する。
 これは閉鎖環境と外部との間で物資のやり取りをするために使われる二重扉式のエアロック。両方の扉を同時に開けてはいけない。
 サイズは、本当に駅の大型ロッカーくらいで、両方の扉を全開すれば人間が通ることも可能だろうが、中に人間が入るのは無理。
 これは、閉鎖環境実験施設を維持するために必要な機器類。おそらく、居住施設よりも、機器類が入っているフロアのほうが広い。
 ちなみに、機器類が置かれているのは外であるが、完全に密封されていて、物質の出入りはできないようになっている。
 上と同じ場所から、別の方向を向いて、機器類を撮影。
 別の位置から機器類を撮影。
 その辺のホームセンターとかで売っていそうな、植物の支柱。閉鎖環境温室で使うのだと思うと、なんか重要機材に見えてくるのが不思議。
 温室だけで、エコノート2人(閉鎖実験施設の定員は2人)が生きていくのは無理があるように思えるだろう。
 それは全くその通りで、温室は施設の2階にある。それでは1階はというと、密閉された空間に照明が備え付けられた完全閉鎖温室が存在する。
 覗き込んでいる我々がいるのは外で、黄色い光が漏れている窓の内側は閉鎖環境になっている。
 もう少し近づいたところ。
 中を撮ってみた。
 これ、何という作物なんだろう。
 こちらは稲の温室。
 ちなみに、手前で移している不思議なフレームに取り付けられたカメラは、某氏お手製のステレオカメラ。
 立派に育っている。
 これは、稲穂のアップ。
 ちなみに、稲は株ごとに植える日付を変えている。
 こうすることで、常に少しずつ稲が取れて、毎日少しずつご飯が食べられるようになっているらしい。
 そのために、稲には株ごとに植えた日が記載されている。
 ちょっとピンボケになってしまって申し訳ないが、白いネームプレートには、苗を植えた日とかが書かれている。
 稲刈り後の株は、ポットごと外部に持ち出され、調査されるらしい。
 閉鎖型生態系実験施設への扉。
 いったん閉じられれば、その後は実験終了までこの扉が開かれることはない。
 こちらは、荷物の出し入れに使われるエアロック。
 もちろん、手前に見えている扉ではない。これは、エアダスターが設置されていて、外部環境の影響を少なくするために、作業する人々の衣服などから埃を吸い取る設備。
 本物のエアロックは、その奥に見えている回転ハンドルの扉だ。
 これは、エコノートたちの居住区と、そのすぐ外にある研究者たちとのコミュニケーション施設のところにある閉鎖扉。二重エアロックになっていないので、非常時以外にこの扉が開かれることはない。
 エコノートの食事の写真。
 見れば判るが、精進料理のようで肉類などは無く、たんぱく質は豆類で補う。
 トイレの解説。
 人間が出したものは、それはそれで重要な物資となり、乾燥させて粉末状にしてから循環再利用へと利用されるらしい。
 外部への窓から、エコノート居住区を撮影。
 コンピュータや電話はあるので、家族に連絡することも可能だ。また、エコノートは研究者でもあるので、パソコンは研究用に使用する。
 もうすぐ閉鎖環境実験が終了するので(その日に合わせて見学に行ったので)、扉の開放を待つ人々。
 実験が終了して、扉からエコノートが出てくる。
 淡々と自分の仕事を終えたプロという感じ。
 こちらは、実験施設の監視室。
 施設内の状態を監視し、いざというときの決定を下すところ。
 監視室のモニター。
 カメラで、施設内のチェックを行っている。
 ヤギの檻。
 最終的には、閉鎖実験施設内でヤギを飼って、そのミルクを飲んで生活することも計画されている。けれども、現在はまだ全部の施設を総合して使うには至っておらず、少しずつ実験範囲を拡大している段階だ。
 だから、ヤギの絵のパネルは、きっと研究員の「いずれヤギを飼うぞ」という意思なのだろう。
 これは、閉鎖実験施設の湿地環境。ただし、まだ本体に接続されておらず、独立運用レベルにとどまっている。
 これも、最終的には一つの環境に統合されるのだろう。
 湿地環境の中。
 整備されていないので、無茶苦茶になっているわけではない。
 わざと、自然の湿地のようなままで閉鎖環境に取り込もうとしているのだ。
 さあ、今回のメインイベント。閉鎖型生態系実験施設の内部の見学だ。
 実験終了後なので、次の実験開始まで余裕があり、我々のような人間でも見学させてもらえたわけだ。
 とはいえ、できれば外部の埃やら何やらを施設内にあまり持ち込むわけには行かない。そこで、割烹着のようなエプロン、マスク、ビニール手袋、ヘアカバーなどを身につける。さらに内部専用の靴に履き替え、さらにその上にオーバーシューズでカバーしてようやく入れてもらえる。
 これが、施設内部見学用の格好。ちなみに、これらのカバーは使い捨てだ。何度も使ってしまうと、結局外部の埃などを持ち込むことになってしまうからだ。
 というわけで、これらは記念にいただいて、お土産として持って帰らせてもらった。
 宇宙船ノストロモ号の内部…であるわけがない。閉鎖環境施設の廊下だ。
 施設の内部は、埃の発生が少なく、密閉度を上げるためだろう。このような金属壁でかこまれている。
 コンクリート壁でないのは、アメリカのバイオスフィア2で、コンクリートが二酸化炭素を吸収してしまい環境内で二酸化炭素濃度の低下が発生したことの教訓を受けてのことだろう。
 先ほどの居住区を、今度は内部から撮影している。
 パソコンやらプリンタやらスピーカやらは、我々が普通に使っているものと同じもの。メールの出せるし、インターネットも普通にできる。
 奥にあるのは、閉鎖環境居住区と外部との間の小型エアロック。駅のロッカーくらいの大きさで、ちょっとしたものなら、ここから出し入れすることもできる。
 先ほどの、外部と居住区の間の密閉扉。
 ちゃんとテレビもある。まあ、狭いところに閉じ込められて、せめてテレビくらいの娯楽が無ければやってられないだろう。
 居住区は、人間の精神衛生上からか木の床になっているが、実は鉄板の上に木の板を置いただけだというのが、部屋の隅を見ると判る。
 エコノートのベッド。
 ごく普通のパイプベッドだ。
 尿回収装置という大層な名前の小便器。
 尿は、塩分(失われると人間は死ぬ)やアンモニア(窒素肥料の元)などの原料ともなる。現在はどうなのかは聞かなかったが、最終的にはこのような塩も回収して再利用することになるのだろう。
 小便器のアップ。
 残念ながら、この施設は女性エコノートには対応していないようだ。
 こちらは大便器。
 なぜか、高い位置にあるのは、便器の下に、便を乾燥粉末化する機器があるからのようだ。
 トイレをする前に、体重を量るのが決まりらしい。
 当然のことながら、エコノートの体重変化も重要な研究データなのだ。
 施設内は、あまり水が豊富ではないらしく、1回のシャワーに使える水は、このバケツ1杯分だけだ。
 電子レンジと電磁調理器。
 考えてみれば当然だが、こんなところでガスを使ったら、酸素が足りなくなってエコノートの生存が危なくなる。
 お土産にもらった、エコノートたちが食べているおやつ。
 炒った大豆に砂糖をかけたもの。
 後で、エコノートに、「中にいて肉とか食べたくありませんか」と聞いたら、「中にいると全く気にならなかった」と答えてくれた。
 実は、エコノートは、我々の夕食の時に来て話をしてくれた。だが、我々が豪華な(いや本当に青森って、こんな旨いものがあるのかってほど)夕食を食べているときに、まだ施設からは出たものの実験は終了していないからといって、エコノート専用の(ご飯と、豆腐にほうれん草のおひたしのようなもので、正直質素に見える)食事を取っていた。
 我々が恐縮していると、「全く平気ですから気にしないで食べてください」と言ってくれた。人間ができているなあ。
 でも、私だったら、絶対耐えられないよなあ。

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