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2 お金にまつわる話。

 プロのもの書きになるのは、簡単です。
 難しいのは、プロのもの書きを続けることであり、プロのもの書きとして有名になったり、お金持ちになることです。
 けれども、それはどんな仕事でも同じです。
 就職するだけなら難しくありませんが、就職しただけで定年まで安泰で退職金ももらえるなんていうのは、幻想でしかありません。会社員から社長になる人は少なく、社長でもお金持ちや有名人になれるのは、ごくわずかです。
 また、なれない人たちが囁きあっているように、一部の有名作家でもなければ、食べていけるほど稼げない、というのは、まったくの誤解にすぎません。
 もちろん、まったく稼げず、あきらめて転職する人もいます。
 けれども、それもどんな仕事でも同じです。
 ただ、仕事を始めたり続けるための維持費が比較的小額で済むもの書きは、仕事がきちんとできなくて稼げなくても、長く続けることが可能です。
 しかもそのとき、「稼げなくても、この仕事はこんなものだ」と思いこんでいると、自分の勘違いに失敗に気づかなかったりします。「好きな仕事をしているんだから、稼げなくてもいいや」なんて人は、ダンピングでまじめに仕事をしている人の邪魔をしているだけだったりします。
 けれども、世の中にあふれる、有料で書かれたものの量を、考えてみてください。
 その一つ一つに書いた人がいるのです。
 あなたがその一人に加わることは、不可能ではありません。

 難しいのは、書きたいものだけを好きなように書きつつ、誰もが名前を知っているような有名な作家になってちやほやされ、がっぽがっぽと儲けることができるもの書きになることであって、プロのもの書きになって食べていくことでは、ないのです。
以上 2001春追加

 もの書きになるまえに、知っておいたほうがいいことが、あります。
 漢字に文法?
 誤字脱字誤用が多すぎるのはこまりますが、書き取りテストじゃないんですから、漢字をたくさん知っていることより辞書を引く習慣のが役に立ちますし、文法がめちゃくちゃでもそれが魅力ならそれでよく、逆に正しい文法で書いたからといって、魅力のある文章になるとは、かぎりません。
 
 もの書きになるまえに、知っておきたいこと。
 それは、もの書きの収入です!
 お金なんてどうでもいい? それじゃあまともに仕事しているとは、言えません。
 もの書きを仕事にしたいなら、お金の話は、避けて通れるはずが、ないじゃありませんか!
 
 記事の場合、その編集部ともの書きによって、ピンからキリまであります。
 ただし新人だろうがベテランだろうが、記事だけで生活を成り立たせるには、ものすごく大量に書く必要があります。
 そして記事はおおむね〆切が短く、また一人のもの書きへの発注量も少ないですから、フリーでこれだけで生活を成り立たせるには、非常な困難を伴います。記事だけで生計を立てているのは、月給制の記者兼編集者で、つまり記事以外の仕事もしている場合がほとんどです。

 プロのもの書きになるなら、自分を安売りしすぎることも誉められたことではありません。
 もう仕事が来なくなるんじゃないかとか、編集者の機嫌を損ねたら悪いことがあるんじゃないかと、なんでもかんでも安す請け合いをしてもいけません。
 時折その編集部とつきあっていくことが、デメリットばかりになっても引き受け続け、自滅してしまう人がいます。
 義理と人情でといえばカッコいいですが、ようは人がよすぎて気がよわくて、赤字になっても頼まれた仕事を断れなかっただけにすぎません。
 そういった仕事は、断ってよいのです。
 そんな編集部が、後にデメリットをカバーするだけの仕事をまわしてくれる、なんてことはありません。
 デメリットでしかない仕事を断って、次の仕事がなくなったとしても、その時間を新しい仕事の開拓に使ったほうが、ずっとましです。
 ビジネスライクですが、そもそも仕事なんですから、当然です。
 しかし目先の稼ぎだけが、稼ぎではありません。
 面倒で儲からないからといって仕事を断っていたら、特に実績のないうちは、まるで仕事になりません。
 編集部だって、あなたが使い物になるかどうかわからないうちは、ベテランが引き受けたがらないような割の悪い小さな仕事をまわして様子を見るものだからです。
 とくに駆け出しのもの書きなら、それをこなして認められることが先決です。
 そして言われるままに書くのではなく、自分から企画を提案することが必要です。
 単発で面倒な記事を引き受けつつ、まとまれば書籍化できる企画を提案するのです。記事の原稿料と書籍の印税は、記事が買い取りでなければ、別々に発生します。

 印税は、書籍の場合は、おおむね本の定価の1割です。
 1割なら、外税で500円の本で、1冊50円です。
 売れるごとにではなく、刷った時点でその冊数分の印税が著者に入ります。
 印税は、増刷のたびに収入になります。
 
 こうした収入からは、問答無用でお国が1割持っていきます。
 いわゆる源泉徴収税というやつです。
 確定申告をすれば、多少戻ってくることもあります。
 そのためには仕事に使った支出の、領収書をとっておいたりしなければ、なりませんし、確定申告をしなければなりません。
 もの書き業にとって、収支計算や確定申告も仕事のうちです。
 社会人として払わなければならないものもいろいろありますし、ボーナスや退職金はありませんから、もらっただけパッと使ってしまうわけにはいきません。

 印税の額は、刷り部数によって大きく違ってきます。
 不況の影響によって、初刷りの部数は減る傾向にあるようですが、文庫の場合最低二万冊ぐらいからでないと赤字になるため、初刷りは二万~三万冊というケースが、多いようです。※1
 それ以外の場合は、その出版社の営業力によっても違いますが、桁が一つ小さくなることもありますが、五千~一万ぐらいでしょう。※2
 よく売れれば増刷されます。増刷は三千冊ぐらいずつで、増刷した分だけ印税が入ります。
 ヒットすれば、この増刷の部数と回数が、どんどん大きいくなって、どんどん収入がアップするわけですが、売れなければ増刷もありません。
 
 さて、時代はマルチメディアですから、原作付きの仕事というのも、たくさんあります。
 原作付きの場合、印税を原作者ともの書きで分けることになります。
 だいたい原作者ともの書きで、3:7ぐらいが一般的でしょう。※3
 めったにありませんが、原作料ゼロの場合もありますし、印税の7割や8割を要求してくることもあります。

 監修付きや、編著者の元で書く場合には、さらにさまざまなケースがあり、一概には言えません。
 たとえば監修者がもの書きの書いたものを下書きにして、書きなおすような場合もあれば、監修者の名前を借りて権威をつけるだけのようなケースも、あるからです。
 監修者の格が高かったり、監修者の作業の量が多ければ、監修者の取り分は増えます。
 普通、監修者ともの書きで1:9~2:8ですが、これが逆転することや、監修者や編著者に没を言い渡されることもあります。
 もちろん没の場合、一銭にもなりません。

 監修者あるいは編著者が、多数のライターに仕事を発注する場合、原稿が買い取りになることが、よくあります。買取りの場合、原稿料が一度だけ支払われ、その後増刷があろうがなにがあろうが、それで収入が得られることは、ありません。
 
 会社組織と専属契約を結んでいる場合、契約にもよりますが、もの書きの取り分は収入の7~8割になります。
 フリーのもの書きが、こうした会社組織から仕事を紹介してもらった場合、会社にかかる負担によって、もの書きの取り分は3~7割ぐらいになります。
 
 しかもお金が入るのは、仕事をしてからずいぶんたってからです。
 基本的に、記事が掲載された雑誌や本が出版されなければ、お金は支払われません。
 記事の場合でも入稿から1ヶ月かかりますし、書籍の場合入稿して1ヶ月で世に出ることもあれば、1年後になることもありますが、だいたい3~5ヶ月かかると思ってください。
 その後、出版社や編著者、編集会社を経由するたびに各社の締め日の関係やらなんやらで、3ヶ月ぐらい経過することも、よくあります。
 それに、出版社ともの書きの間に別の人間や会社が入っている場合、もの書き側から請求書を発行しないと、支払いの義務は発生しません。
 もの書き業にとって、請求書の発行も、仕事のうちです。

 さて、だまって相手がくれる分を受け取るだけでは、精力的に仕事に取り組んでいるとは、言えません。自分の取り分は、実力UPや交渉によって引き上げることも可能です。
 たとえば「印税の6割は欲しい」とか「初版3万部は保証してくれ」といった具合にです。
 「印税ではなく、買取で入稿時に、作業料としてこれだけの額は欲しい」というのも、ありでしょう。増刷があった時の取り分は、あきらめることになりますが、確実な方法です。
 ですが、こうしたものは、仕事を受ける前に交渉しなければなりません。
 ですから、最初に契約書を交わす必要があります。
 もの書き業にとって、こうした交渉も、仕事のうちです。
 
 契約書はケース・バイ・ケースで、中身はいろいろです。
 出版社によって定型契約書があることも、よくあります。
 もの書きは、その契約書の内容をよく読んでから、判を押しましょう。
 もちろん契約書は、もの書きを守ってくれますが、同時にもの書きも契約書の内容を守らなければならなくなります。
 
 しかし、大半は口約束だけでものごとが進んでいきます。
 契約書を交わすことにイヤがるそぶりを見せたり、ならあんたに仕事は出さないという態度を取ったり、出す出すといってうやむやにしようとする相手とも、出会っていくでしょう。
 もの書き業をするなら、社会人として、仕事の相手にケンカ腰の態度を気取られてはなりませんが、できうるかぎりの自衛策を取っておく必要はあります。
 何月何日誰と話して何を決めたかの記録を残してください。
 
 相手に約束を守らせるためには、こちらも誠実に約束を守る必要があります。
 トラブルになったとき、それを解決するには、正確な記録や証拠が必要です。
 
 私が会社と契約を結んでいるのは、一つはその方が仕事を得やすいからであり、一つはその方がトラブルを解決しやすいからです。※4
 私自身、本1冊分の原稿を入稿したのに、うやむやにされそうになったこともありましたし、話すたびに〆切や取り分について別のことを言う編集者に会ったこともあります。
 交わした契約書を紛失して、支払いを1年も遅らせた出版社もあります。

 イヤな話が続きましたが、問題のある相手から付き合いはじめることが無いとも言えません。
それに、それ以上に問題のあるもの書きもたくさんいて、相手が常にそれに頭を悩ませていることも、忘れてはいけません。
 
 そしてもの書き業を始めるつもりなら、この二点をチャンスと思ってください。
 
 なにせ、問題のある相手とはベテランは仕事したがりませんし、新人も実績をつんで余所で仕事ができるようになると去ってしまいますから、これはつまりデビューのチャンスも多いということです。
 お金にはならないかもしれませんが、お店だって開店したら、まず売ることよりも宣伝とサービスで、固定客を掴もうとするでしょ? それと同じだと考えてください。
 この段階を学生のうちにクリアしたり、当面収入が無くても困らないだけの蓄えを用意してから、活動に専念したりといった、計画性が必要です。
 それに、問題のあるもの書きが多いなら、あなたが問題のないもの書きであれば、より相手が求めるもの書きになれるというわけです。
 
 (以上)

2001春追記
 ※1 困ったことに、技術革新と不況のせいで、文庫の最低刷り部数は減る傾向にあります。
 現在は、一万部前後というところでしょうか。
 しかもIT革命のせいで、古本市場が活性化しています。
 古本市場でどんなに流通しても、著者と出版社には、一銭も入りません。
 といってもわが家でも、ちょっと高い本や古い本は、全部古本屋サイトで探し、手に入れています。
 ※2 の場合も、3000~5000くらいになっています。
 ※3 これもまた、原作料も値上がりする傾向に。
 ※4 ただし現在は、私もだんな(山北篤)も会社を離れ、フリーになっています。
 オフィスの維持費から、直接稼がない社員の人件費といった支出は、すべて誰かがものを書いて得たお金から、ねん出しなければなりません。また、それ以外に余分に発生する仕事も、様々にあります。つまり、会社に所属する場合、相当な負担を、覚悟しなければなりません。
 けれども組織化や、組織に所属するメリットも、様々にあります。コネクションを共有し、自分では受けられない仕事を融通しあい、大きな受け皿を作ることができます。
 クライアントにとって「ここに話をもっていけばなんとかなる、信頼できる」相手になれれば、仕事の質と量も、増やすことができるでしょう。
 ただ、またまたIT革命によって、都心にオフィスを構える必要が、なくなってきました。