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ゲームは触法少年を作るか

Date:2006/1/26(木) 23:55
Name:山北 篤

 ゲーム害悪論が花盛りだ。

 明らかなトンデモ本である『ゲーム脳の恐怖』を信じ込んでいる人々の多いことは、この日本に科学的態度を身につけた人が少ないことを証明してしまっている。

 で、今度は『脳内汚染』だそうな。少年犯罪が増え、キレる子供が増えているのは、ゲームとネットワークのせいなんだそうな。

 で、こういう本を読んで、信じやすい人々が「そうだゲームは悪い」と思い込んでしまう。

 ところで、こういうものを読んで信じてしまう人々は、そもそも「本当に少年犯罪は増えているのか?」という問題について、少しでも調べたことがあるのだろうか。単に、「昔は良かった」という懐古趣味だけで、昔は平和だったと思い込んでいるだけではないのか。

 そう考えて、インターネットでサーチしてみた。公式な情報としては、法務省白書等データベースを見ればよい。しかし、これは検索性が悪く、しかも経年データを追うのが面倒だ。そこで、これらをまとめて見やすい表を作ってくれているサイトとして、少年犯罪データベースがお勧めだ。

 これから、少年犯罪の抜粋をしてみると、以下のようになる。毎年のデータを見ていたのでは、データが多すぎるので、5年毎の統計を取ってみよう。
年度年号殺人強盗強姦
1946〜1950昭和21〜25年1532153953854
1951〜1955昭和26〜30年198095689033
1956〜1960昭和31〜35年18631204618573
1961〜1965昭和36〜40年1915887520709
1966〜1970昭和41〜45年1460524216153
1971〜1975昭和46〜50年60637738206
1976〜1980昭和51〜55年39430294839
1981〜1985昭和56〜60年40936354093
1986〜1990昭和61〜平成2年44630652504
1991〜1995平成3〜7年39139351502
1996〜2000平成8〜12年50576611845
2001〜2004平成13〜16年4556407922
最後の行だけは、2005年のデータが無いので、4年分の合計。

 一目見れば判るが、多少の凸凹はあれども、全般的に見て、少年犯罪は減っている。ここ10年くらい、多少増加傾向にあるようだが、それでも昭和30年代の最悪期に比べれば、遥かに大人しいものだ。

 もし、この統計を元にゲームが悪いのだとすると、昭和30年代にゲームが最も盛んであり、その後ゲームは衰退したとしか考えることができない。もちろん、そんなことは無い。

 もしも、ゲームによって触法少年が増えるのだとすると、1970年代までは触法少年は少なく、1980年代後半から犯罪を犯す少年が急増していなければならないはずだが、全くそんな傾向は読み取れない。

 つまり、全くのデタラメであることが明らかである。

 ちなみに、平成15年(2003年)の年齢層別殺人率は以下のようになっている。これは、人口10万人あたり、殺人者が何人いるかを表すデータである。ちなみに、未成年のカッコ内は14〜19歳だけを取り出した場合のデータである。

未成年20代30代40代50代60代70代以上
殺人率0.73(1.15)1.581.731.341.601.180.44


 通常の国では、30代を最高に、年齢が上がるにつれて殺人率が下がる傾向にある。ところが、日本だけはなぜか50代が突出して高くなっている。なんと、血気に逸る20代よりも、分別があるはずの50代のほうが殺人率が高いのだ。


 上の統計データから、私ならもっと明快かつ正しい説明を行うことができる。それが、『白黒テレビ害悪論』である。

 昭和30年代に最も広まり、その後衰退したもの。そして、多くの人々がその影響を受けたものは何か。それは白黒テレビである。

 皆さんは、ショックを受けたとき、世界が色を失ったような気がしたことはないか。また、希望の無い世界のことを灰色の世界と言わないか。そう、色の無い世界は、心の温かさを失った、殺伐とした世界なのだ。

 そして、白黒テレビは、まさにそのような灰色の世界を映し出すものだ。このような灰色の世界を子供の頃から見せられた人間は、他人に対する思いやりの無い、キレやすい人間に育ってしまうのだ。だから、昭和30年代の少年はキレやすく、容易に殺人を犯してしまう。

 そして、この恐ろしい影響は、白黒テレビがなくなっても残ってしまう。子供の頃からカラーテレビを見て育った子供は、暖かい色を見て育ったため、犯罪傾向を育てなかった。しかし、幼い頃に白黒テレビで灰色の世界観を刷り込まれた子供は、その後何歳になってもキレやすく、犯罪を犯しやすくなってしまうのだ。

 そう、昭和30年代の少年たちこそ、現在の50代なのだ。

 そして、最近触法少年が増加気味なのは、別の白黒ディスプレイを見る機会が増えているからだ。そう、iPodである。

 だが、iPodもnanoによってカラー化された。今後は、触法少年の増加も落ち着くことが期待できる。







 納得していただけただろうか。もし、上の文章を見て納得したのだとしたら、あなたは妄信しやすい人間だ。

 確かに、データも見ないで、嘘っぱちを信じてしまう人々は愚かだ。だが、上の文章だって、同じくらいたちが悪い。少年犯罪の数と白黒テレビの数は、確かに同期して減っているように見える。だが、それは偶然かもしれない。それを一切の確認もせずに、一気に害悪論に持っていく点においては、ゲーム害悪論と五十歩百歩だ。

 本当に判っていることは、以下の二つだけだ。

1.ゲーム害悪論やネット害悪論は、統計的に見て明らかに間違いであること。なぜならば、ゲームがネットが一般化している時代よりも、一般化していなかった時代のほうが明らかに触法少年の数が多いからである。

2.現在の日本においては、10代の若者よりも、50代の大人のほうが犯罪率が高いこと。これは、統計データより明らかである。この原因は、まだ判らない。もしかしたら、彼らが少年の頃に犯罪傾向が強かったことと何らかの関係があるのかもしれないが、明確な証拠は無い。

 これ以上は、データの解釈になるが、正しい解釈を行うためにはもっときちんとした調査を行わなければならない。いたずらに、悪者探しをするようでは、ゲーム害悪論を唱える馬鹿者どもと同じレベルになってしまうからね。

追記

 実は、この記事、最初は白黒テレビ害悪論のところで終わっていた。「納得していただけただろうか」以降は、後で付け加えたものだ。

最初の意図としては、こうだった。

 「白黒テレビ害悪論」のトンデモさは、誰にだって判るだろう。ならば、ゲーム害悪論も実は同じくらいトンデモであることも判ってもらえるだろう。

 けれど、人に言われた。インターネットユーザーの情報リテラシーはそんなに高いものじゃない。理解してもらえないよと。

 確かに、人の理解力がそれほど高いのならば、そもそもゲーム脳なんて論理性も整合性もない与太話を信用するはずがない。ところが、それにうかうかと騙されて子供に教えるキョーイクシャとか、二匹目のドジョウを狙ってさらに非論理的な本を書くチシキジンといった頭の悪い連中の多いこと。

 そこで、残りの部分を付け加えて、解説をするようにしたのだが、これも良くなかった。

 そうではなく、こういうものに騙される頭の悪い人向けには、「これは全くの嘘っぱちだ。絶対信用するな。お前たちはおろかで騙されやすいんだぞ」ということを強調してやらなければならないのだということを、つくづく思い知らされた。

 だから、こう書いておこう。

 『ゲーム脳の恐怖』も『脳内汚染』も、どちらも何の根拠もない妄想にすぎない。絶対に信用してはいけないし、今後も似たような連中が登場するが、それに騙されないように気をつけろ。

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